2021年度設備投資計画と経済動向~必要な閉そく感の払拭~<2021・06・11>
長野経済研究所「設備投資動向調査」について
長野経済研究所では年に2回(3月・9月)長野県内企業約800社を対象に、設備投資動向調査を実施している。
今回は今年度(2021年度)の設備投資計画に関する調査結果について報告したい。
設備投資とは何か、何故重要なのか
設備投資とは、企業が古くなった機械を更新したり、生産能力の拡大や技術革新などの目的で、機械を購入したり、工場などの建物を建設したりすることである。
教科書的に言うと「経済のエンジン役」。その仕組みは設備投資により生産が増え、企業の売上や利益が増えることから従業員の給与が増え、個人消費が増えるというもの。
また新たな事業展開をするためにも設備投資は欠かせないから、経済活性化のバロメーターとも言える。
更に設備投資自体がそれに関係する機械メーカーや、工場を建てる建設業の売上げを伸ばすことにも繋がる。
このように多面的な経済効果を持つのが設備投資だ。
2021年度の設備投資の見通しは対前年プラス13.3%
今回の設備投資動向調査をみてみると、2021年度の当県の設備投資計画額は対前年プラス13.3%と二桁の増加となった。
昨年度(2020年度)新型コロナウイルスの感染拡大で、設備投資は相当抑えられてしまった。
その反動として先送りされた設備投資が今年度になり予定された、というのが二桁の増加となった理由の1つ。
また、ここにきてリモートワークによる情報機器需要の増加や5G投資が本格化していることから、世界的な半導体需要が増加しており、関連産業の設備投資につながったことなどが理由の2つ目だ。
そのため、直接関係する製造業では対前年プラス25.0%と大幅な増加となっている。
そして、コロナによる「巣ごもり消費」の増加で食品関連需要も増加しており、食料品製造業の投資も大幅に増えている。
一方、非製造業は対前年マイナス10.1%と厳しい結果となった。
ここに該当する産業は、小売業、建設業、サービス業など、生活する身の回りに関する産業が多い。
新型コロナウイルスへの感染懸念や、それへの対処として実施された緊急事態宣言の影響などから消費マインドが悪化し、小売・サービス業などの業績が悪化した。
加え先行きの不透明感から設備投資には消極的な企業が多くなったものだ。
本調査では、投資金額ばかりでなく「投資方針」も尋ねているが、観光関連産業では半数の企業が「かなり抑制的」という回答だ。
観光関連産業の現状の厳しさと見通しの不透明さが伺える結果となった。
設備投資を抑制する閉そく感をどう打開するのか
このように製造業の設備投資は回復の兆しをみせているが、非製造業は厳しいままの「二極化」の様相が伺える。
経済が浮揚するためにはエンジンとしての設備投資が回復することが必須だが、落ち込んでいる非製造業の投資再開がポイントとなろう。
そのために必要な事はコロナに起因したこの国の閉そく感の打開だ。
打開の契機としては東京五輪開催に期待したい。
依然、賛否両論ある東京五輪だが、開催されれば艱難に立ち向かう選手の活躍がこの国の閉そく感を打開し、うつむいた消費が上向くきっかけとなるのではないか。
東京五輪開催の必要性については、パラリンピック競泳選手、木村敬一氏の言葉が心に響く。木村選手はパラリンピックで6個のメダルを獲得している競泳男子全盲クラスのエースであり、すでに東京五輪への代表に内定している。
新聞報道等が伝えるところによると、「開催することで感染を広げることはやってはいけない」としながらも、「開催へ向けた努力は、社会を取り戻す努力につながる。(開催するための努力は)ウイルスを封じ込めていくだけの努力と、ほぼイコールだと思う」と語っている。
コロナウイルスを封じ込める努力は何にもまして重要だ。そして、これと同じぐらいに平常時の事業を開催・実施していくための努力も重要なのだと思う。
新型コロナウイルス感染拡大から2回目の夏を迎えようとする今、我々の普通の社会を取り戻す努力こそが必要な時期になっているのではないだろうか。
明るい未来を信ずる先に設備投資の花が開く。
(初出)SBCラジオ「Jのコラム」(2021年6月11日放送)
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