世界初の技術で未来を切り拓く―ミカドテクノス(株) <2025・12・3>

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最終更新日: 2025年12月3日

釣り竿から真空熱加圧装置に

 ミカドテクノス(株)(上伊那郡箕輪町)は、社員わずか25人という少数精鋭ながら、世界に誇る技術力を持つ企業である。創業は1953年。曾祖父が始めた金属プレス加工からスタートし、釣り具の継ぎ手金具の製造を手掛けていた。

 その後、安全装置の開発を経て、プレス機に熱や真空を加える技術を確立。こうした技術の積み重ねが、半導体や電子基板製造に不可欠な「真空熱加圧装置」へと発展した。

 この真空熱加圧装置は、真空状態で熱と圧力を加えることで、精密な接合を可能にする装置であり、半導体やLED、電子基板などの製造に欠かせない存在である。

 装置の開発・設計から自社で行うため、ユーザーのニーズに合わせたカスタマイズが可能であり、この柔軟性が同社の強みとなっている。

ものづくり大賞NAGANOグランプリ受賞―世界初の装置

 同社は「ものづくり大賞NAGANO2025」でグランプリを受賞した。評価されたのは、世界初の「スタンピング式真空めっき処理装置」である。 

 従来のめっき処理は、部品全体をめっき液に浸す方法が主流で、大量の水と薬液、エネルギーを消費していた。しかし、この新装置は、必要な部分にスタンプを押すようにめっきを施す革新的な方式を採用。これにより、めっき液の使用量は従来の30分の1、水の使用量は80%削減、CO₂排出量も45%減という環境負荷低減を実現した。この技術は、SDGsに直結する画期的な取り組みとして高く評価されている。

 開発のきっかけは、トヨタ自動車の技術者からの提案であり、同社が長年培ってきた真空加熱技術の蓄積が大きく寄与した。

 現在、AI半導体や電気自動車の基板など、次世代産業の加工企業から数多くの引き合いがあり、量産ラインでの採用を検討する企業も出てきている。近い将来、この装置が世界のめっき処理を変える可能性を秘めている。

危機をチャンスに変えた「レンタルラボ」―共創の場としての挑戦

 同社の強みは、革新技術だけではない。過去の危機を乗り越える柔軟な発想にもあった。リーマンショックで設備投資が停滞した際、同社は「レンタルラボ」事業を開始した。これは、自社の真空熱加圧装置と技術者をセットで貸し出し、企業の研究開発を支援する仕組みである。

 この取り組みは、研究を止めたくない技術者に支持され、全国から利用者が集まった。研究が進み、製品化のめどが立てば、将来のビジネスにつながる。まさに「雨が降ったら傘をさす」という発想で、不況期でも新しい技術の芽を育て、次のジャンプに備えることができたのである。現在もレンタルラボは稼働しており、ここから世界初の技術が生まれることも珍しくない。

社員育成―小さな組織だからこそできる多能工体制

 社員25人という小規模組織ゆえ、同社は専属チームを組む余裕はない。そのため、営業担当が修理や実験も担う「多能工」が当たり前となっている。未経験者が設計プログラムを任されるまで成長する例もあり、実践を通じたスキル習得を重視している。

 学校教育より企業現場での経験が成長を促すという考え方のもと、挑戦する社員を後押しする文化が根付いている。

 伊藤隆志社長は「全員を正社員として雇用すること」にこだわり、家庭の事情を除き、働く仲間はすべて正社員。こうした安定した雇用環境が、社員の挑戦意欲を支えている。

未来への展望―世界市場への挑戦

 現在、AI半導体やEV基板など次世代産業での需要が高まる中、スタンピング式真空めっき処理装置は、環境負荷低減と高精度加工を両立する技術として注目されているSDGsに貢献する装置として、世界市場での展開も視野に入れている。

 ミカドテクノスの歩みは、「危機をチャンスに変える力」「環境に配慮した革新技術」「人材育成と共創」を軸に、世界に挑戦する企業へと進化し続けてきた。今回の受賞は、その集大成であり、未来への第一歩と言える。

(資料)SBC「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2025年11月30日放送)

 

 

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