新たな息吹~地域の可能性を拓く人々(1)~(株)ふろしきや 田村英彦さん<2025・08・25>

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最終更新日: 2025年8月25日

 長野県に新たな風を吹き込み、地域経済に活力を与えている移住者や、しなやかな女性起業家たちの挑戦と夢を追いかける姿に迫るシリーズ「新たな息吹~地域の可能性を拓く人々」を「経済月報」にてスタートした。本コラムでは、そのエッセンスを報告する。
 第1回では、千曲市に拠点を置く株式会社ふろしきやの代表・田村英彦氏を紹介する。

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医療の道から「地域づくり」へ転身

 ふろしきや(株)は、千曲市を拠点に、地域資源を活かしたまちづくりや新しい働き方の提案を行っている企業である。社名には、形や大きさを問わずさまざまなものを柔軟に包み込む「風呂敷」のように、多様な人や価値をまとめる存在でありたいという思いが込められている。この会社を立ち上げ、現在も代表として活動を牽引しているのが田村英彦さんだ。

 田村さんは京都府出身で、大学院ではES細胞の研究に取り組むなど、再生医療の道を歩んでいた。しかし、学問と並行して打ち込んでいたフィールドホッケーの経験を通じて、人と人がぶつかり合いながらも調和へと至るチームワークの力に魅了され、自分の生業は人の力を引き出し、まとめ、成果を生み出すことにあるのではないかと感じるようになった。その確信が、研究者としての道から離れ、地域づくりという新たなフィールドへと踏み出すきっかけとなった。

 2016年に同社を創業し、翌年には千曲市へ移住。移住セミナーへの参加をきっかけに何度か訪れるうちに、街のコンパクトさや温泉の近さ、四季の移ろいを感じながら暮らせる心地よさに惹かれた。こうした背景のもと、千曲市の中心市街地活性化プロジェクトにアドバイザーとして関わるようになり、地域との関係が深まっていった。

ワーケーションが拓く可能性-観光を超えて

 同社が展開する代表的な取り組みが「レボ系ワーケーション」である。これは「レボリューション」と「ワーケーション」を組み合わせた造語で、仕事と休暇を融合させた新しい働き方の中で、地域課題の解決や新しい価値の創出を目指すものだ。たとえば、温泉宿を拠点に静養と業務を両立させる「湯治ワーク」、観光列車を移動型オフィスとして活用する「トレインワーケーション」など、地域の風土に根ざしたユニークなプログラムが展開されている。これまでに延べ700名以上が参加し、リピート率は7割を超えるなど、参加者の満足度も高い。

 さらに、地域内の拠点を面的につなぐ取り組みとして「温泉MaaS」が導入された。これは、移動・滞在・体験を一体的に設計したサービスで、LINEを使ってタクシーやレンタサイクルの予約、ワークスペースや観光スポットの案内、地域内で使えるチケット機能などを一括で利用できる仕組みになっている。この取り組みは、しなの鉄道を中核に据えた「千曲川ゴーランド」へと発展し、地域資源の活用をさらに広げている。

偶然の出会いの先にあるもの

 田村さんは、肩書を外した個人同士の出会いや対話から生まれるセレンディピティこそが、社会を前進させる力になると語っている。偶然の出会いや予期せぬ発見が新たな価値を生むプロセスは、一見遠回りに見えても、実はとても効果的なアプローチだという。

 そして、まさにこうした出会いや対話を丁寧に仕込む活動こそが、田村さんが実践してきたワーケーションである。自然や地域との関わりの中で、肩書や立場を超えた自由な交流が生まれ、そこから新たなアイデアや協働の可能性が広がっていく。

 関わる人々が幸せになることで、社会は一歩ずつ前へ進んでいくという信念のもと、偶然の出会いを丁寧に仕込みながら、より良い社会の実現に向けふろしきやは着実に歩みを進めている。


(資料)「新たな息吹~地域の可能性を拓く人々『ワーケーションが紡ぐ新たな交流:
ふろしきや(株) 田村英彦さん』」「経済月報」(2025年8月号)
 

 

 

 

 

 

 

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