(株)西軽精機の人を大切にする経営<2025・08・31>
「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の審査委員会特別賞を受賞
(株)西軽精機(佐久市)は、精密部品の製造を手がける企業で、「社員を大切にする経営」を徹底して実践し、2025年に「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞を受賞した。この賞は、業績だけでなく、社員重視の経営姿勢や社会的責任を果たす企業に贈られるものである。
同社はリーマンショック時に業績不振に陥り、上原大輔社長は土日も出勤するなど奮闘したが、社員からは評価されず不満を募らせていた。そんな中で出会ったのが、坂本光司氏の著書『日本でいちばん大切にしたい会社』である。同書の「会社は社員とその家族のために存在している」という言葉に衝撃を受けた上原社長は、それまでの「お客様第一の姿勢」を改め、「絶対にこうした会社になってみせる」と決意。以後13年にわたり「社員とその家族」を一番に考える経営の実践に取り組み、ついに受賞に至った。
坂本氏の著書に感動する人は多いが、感動して終わることがほとんどである。それを実行に移し、13年も継続することは簡単にできることではない。
社員全員でつくる就業規則
同社の特徴的な取り組みの一つが、「社員全員で就業規則をつくる」というプロジェクトだ。これは、創業当時から継ぎ足しで使われてきた規則が、現代の働き方に合っていないという課題意識を持った上原大輔社長が、社労士に相談したことから始まった。
この取り組みの本質は、「規則ありき」ではなく、「社員の実態に即したルールを、社員自身がつくる」ことにある。社員が自ら関わることで、規則は単なる紙の上のルールではなく、現場に根付き、守るべきものとして機能するようになる。社員の主体性を尊重するこの姿勢は、働きやすさだけでなく、企業文化の醸成にもつながっている。
会議では、「夢を叶えるための休職制度」や「勤続年数に関係なく取得できる休職」など、社員同士が真剣に議論を交わし、柔軟で人間味のある制度が提案されている。
感謝を伝える「ありがとうカード」
もう一つの象徴的な取り組みが、「ありがとうカード」の導入である。これは、社員同士が感謝の気持ちを伝えるためのカードで、工場内に設置され、誰でも自由に使うことができる。
人は、日常の中で「ありがとう」と言うことが照れくさく、つい言いそびれてしまうものである。そこで、カードという形にすることで、感謝の気持ちを可視化し、伝えやすくした。定期的に渡し合うこともルール化しており、職場の人間関係を円滑にする効果を生んでいる。
上原社長は、「これはお金のかからない取り組みなので、ぜひ多くの企業に広がってほしい」と語っている。実際、長野県内の企業は優しい社風を持つところが多いものの、「ありがとう」が少ないように感じる。照れることなく「ありがとう」を交わすことで、笑顔が溢れる職場に変わるだろう。
人を大切にする経営の先にあるもの
同社の取り組みは、単なる制度や仕組みの導入にとどらない。根底にあるのは、「社員が幸せでなければ、会社の持続的な成長はあり得ない」という強い信念だ。
例えば、残業削減の方針も、単にコスト削減のためではなく、「残業は家族との時間を奪う行為であり、社員の幸せを損なうもの」という考えに基づいている。社員が心身ともに健康で、家庭と仕事を両立できる環境を整えることが、結果として企業の力になるという発想だ。
また、社員が会社を「自分ごと」として捉え、主体的に動くようになることで、仕事に対する提案も自然と出るようになる。上原社長は、「居心地のいい会社をつくれば、社員はこの会社がなくなったら困ると思うようになり、自ら頑張るもの」と語り、社員の自発性を信じている。
こうした経営姿勢は、技術力や製品力と並んで、企業の競争力を支える重要な要素だ。
同社は、六角穴加工や多条ネジ、偏芯など、他社が簡単に真似できない高度な技術を持ち、医療機器など精密さが求められる分野で使われている。
会社に大切にされた社員が誠心誠意で挑戦をした結果だと言えよう。
(資料)SBC「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2025年8月31日放送)
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