人を大切にする経営で元気をつくる(11)-相模組<2024・06・18>
地域に根差した活動が築き上げた信頼
(株)相模組は、1918(大正7)年に創業し今年106年を迎える総合建設業だ。
大町市を拠点に大北地域を事業エリアとし、スキー場関連施設やホテル・旅館のほか、道路、橋、砂防ダム、工場、学校、個人住宅など、地域の幅広い建設需要に応えてきた。
同社の社是は「真剣に考えよう」。地域や顧客に対して、誠心誠意、知恵を絞り、全力で尽くしていこうという思いが込められている。
この社是を毎朝ラジオ体操が終わった後、全員で唱えている。立派な企業理念や社是も、額縁に入れて飾っておいただけでは何の意味も持たない。当社では、社是を日々唱え、考えや行動を地域や顧客に向けることで100年を超える歴史を刻むことができたのである。
地域の困りごとに応え、お役に立つ
地域からの信頼は、地域の困りごとにしっかりと応えてきたことによっても築き上げられてきた。
災害時の復旧工事や場所と時間を厭わない除雪はもちろん、地域防災の要として欠かせない消防団活動にも積極的に取り組んできた。消防団は、団員の多くが企業に勤める社員であることから、企業の協力が欠かない。
ところが、参加企業は年々少なくなっているのが現状だ。同社は、2008(平成20)年に消防団協力事業所として登録されて以来、社員の2割に当たる20余名の社員が団員として活動しており、消防庁よりゴールドマークの認定を受けている。地域で培われた信頼は、安定的な受注につながっている。
100年の実績と信頼が実現する 非価格競争
1つ1つを真面目に積み重ねてきた実績が、リピーターをつくり、口コミで新たな顧客を呼び込んでいる。特に民間建築の分野では、特命案件が多くなっており、金額で叩き合う価格競争とは一線を画した非価格競争による受注割合が増えている。
最近では、白馬村で外国人の別荘を手掛けたところ、同社の評判が口コミで広がり、ホームページに見積もりや施工依頼が直接入るようにもなっている。地域密着ゆえに、大北地域の厳しい自然に最もフィットする建築物を仕上げることができるのである。
社員の実情に合わせ働き方を変える
同社が地域密着を標榜する理由は、単に地域での信頼の積み重ねのためだけではない。社員が生まれ育った故郷で、安心して働けることを重視しての決断でもあるのだ。
同社に入社する社員はほとんどが、高校卒業後や大学卒業後に地元に戻って、地元で働きたいと希望する人たちだ。そうした社員の実情を知っておきながら、地元以外の拠点に転勤してもらうことは、社員の期待に背くことと考えている。
同社は、社員の生活、社員の実情に合わせた働き方を最も尊重しているのである。
障害者の実情に仕事を合わせる
中でも障害を抱えることになってしまった社員の実情に対応した働き方の導入は、社員を大切に考える同社を象徴する取り組みだ。
同社には、障害者が3名在籍している。うち2名が重度障害者のため、障害者雇用率は業界平均2.06%の倍以上に当たる5.2%と高い実績になっている。
重度障害者の1人A さんは、在職中に人工透析が必要となった。週3回の通院治療を受けていくと、従来の有給休暇だけでは足りないことは明らかで、経済面での困窮が懸念された。これに対し、同社は特別休暇制度を新設し、この実情に対応した。
また、A さんは土木施工管理技士の資格を持った現場代理人として働いてきたが、週3回の人工透析を受けながらの労働は従来通りという訳にはいかない。加えて体力面での負担を軽減する必要もある。そのため、近場の現場を優先的に担当できるよう仕事を組み直した。
採用基準はやる気、社員の4割は文系出身者
「100年企業」の秘訣は、社員の生活実態に合わせた働き方ができている結果であることが分かる。
もう1つの秘訣が、社員のやる気だ。
同社では、やる気があるとさえ判断できれば、文系・理系、男女関係なく採用している。そして、誰でも会社が責任を持って技術者に育成すると明言し、実行してきた。現社員95名のうち、文系出身者は4割に当たる35名だ。全員が建築士や施工管理技士などの資格を持った技術者となっている。女性も14名中3名が資格を持った技術者である。
昨今の人手不足が深刻化する中、このような陣容はどんな人材でも採用でき、戦力化できることから採用面での強みになっている。
メンター制度とプログラムの両輪で新人育成
採用後、新人の育成は、メンター制度と育成プログラムの両輪によって担われている。
メンター制度は、新人の日々の不安を解消することで離職を防止し、マンツーマンのきめ細やかな指導育成を可能にする。入社1年間は教育期間として定められ、その間に体得すべき業務やスキルをまとめた「新入社員スキルアップシート」に沿って育成がなされる。さらに、入社した1年間は、毎週火曜日に大北高等職業訓練校への通学を義務付け、1日6時間の座学を経て建築の基本を身に着けていく。
こうした手厚い教育を経て、ほとんどの新人は、土木の現場では3~4年目、建築現場では5~6年目から現場代理人として活躍できるようになっている。
社員の生活を犠牲にすることなく、その実情に合わせ100年の歴史を歩んできた同社だ。次の100年も確実に刻んでいくことだろう。
(資料)『社員を大切にする経営で元気をつくる』長野経済研究所「経済月報2024年6月号」より抜粋
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