人を大切にする経営で元気をつくる(8)-アンジェラックス<2023・12・14>
各賞を総ナメのエステティックサロン
(株)アンジェラックス(長野市、代表:池田緑氏)は、人手不足により苦境が伝えられるエステ業界において、異例の急成長を遂げているエステティックサロンだ。
店舗は、県内では長野市、松本市、軽井沢町など5店舗、県外は東京都内に5店舗のほか、大阪市、福岡市など合計12店舗を展開している。特にここ10年間は、ほぼ毎年のように新規出店を行ってきている。
店舗拡大と同時期に開始した化粧品の販売も、コロナ禍での来店客減少を補うためYouTubeでの情報発信を充実させた結果、全売り上げの4割を占めるまでに拡大している。その結果、ここ十年の売上高は、ほぼ毎年15%の成長を続けている。
この急成長を可能にしているのが同社の高水準の技術と、社員の高いモチベーションである。
エステティック業界では、その技術などを競う場として「エステティックグランプリ」が有名だが、この大会の「顧客満足部門」で史上初とされる5度の全国1位を受賞している。
そして、社員のモチベーションの高さが評価されるGPTWジャパン(Great Place to Work institute Japan)が主催する「働きがいのある会社」ランキングでは、2018年から20年までベストカンパニーに選出されており、総合のサブランキングの1つである女性ランキングでは、20年、22年に小規模部門で1位を受賞している。
アンジェラックスの働き方改革
同社は、13年から働き方改革に着手している。働き方改革が世間一般で本格化したのが19年だから、6年も早いスタートということになる。そして、現在では業界でトップクラスの福利厚生制度を整え、働きやすい会社となっている。
改めて同社の働きやすい職場環境を整理してみるなら次のようになる。
給与は業界水準を上回り、完全2交代制で勤務時間は原則8時間。時間外労働をする場合は、その手当が支払われサービス残業はない。休暇は、お盆・ゴールデンウィーク・誕生日休暇、そして入社初年度から10日間の有給休暇の消化が可能となっている。育児休業の取得実績は100%だ。これらの休暇は仕事の段取りがつけば、いつでも取得可能だ。
それができるよう、同社では多めの人員を採用している。
社員の燃えるようなモチベーションの培い方
高水準の技術に働きやすさの土台が整えられ、同社の快進撃は続いている。成果を上げる社員の燃えるようなモチベーションはどのように培われているのだろうか。
同社では、仕事に対する社員の適性を大切にしている。人は得意な事を仕事に出来れば、高い能力を発揮できる。それで感謝されたり、頼りにされれば幸福感が高まり、さらに頑張るだろう。
ただ、その適性というものは、意外と本人も気付いていないことが多い。同社では、各社員に最も適性に合ったポジションに就いてもらうため、面談を中心に社員を知ることを徹底している。
まず、店長やマネージャーにより月に1度の面談が行われる。日頃の仕事についての課題や、本人の仕事に対する思い、希望などを語り合う。
次いで、役員の面談が半年に1度行われ、そもそも人生に何を求めているのかなど、人生の方向性についてまで深い議論が行われる。
面談のような形式張ったものだけでは把握できる情報は限界がある。店長やマネージャーは、日頃の社員の行動特性にも注目している。例えば、一人黙々と施術をすることが好きなのか、仲間との関係性を重要視するのかなど。それにより、エステシャン、管理職などの適性の可能性を探る。
適性テストも入社時や研修時に行っており、この結果と面談結果と行動特性から適性を考えていく。メンバー間でも議論をしながら本人の希望を踏まえて、最も適性があるとされた働き方をしてもらっている。
社員のモチベーションに火が付かない訳がない。
さらに、感謝を送り合う文化も燃えるアンジェラックスの特徴だ。
同社は半年に1度の表彰式と、それに合わせた盛大なパーティを実施している。表彰の内容は、「MVP」、「社長賞」、「ベスト店長賞」、「顧客満足賞」、「チームワーク賞」等で、頑張った店舗や個人が賞される。
人望があるリーダーが導くチャレンジングな組織
同社の離職率は、18年には5%と驚くほどに低くなった。
20年以降は、独立支援等を含め、健全な新陳代謝という考えの下、離職率を下げること自体を目指してはいないものの、こうした低い離職率は先述の社員の適性配置の成功と、同社の人間関係の良好さを物語っている。
人間関係が良い理由の1つとして、社員同士が上辺だけでなく、本音で言いたいことが言い合える間柄になっていることがある。それ故に良い点も悪い点を指摘し合え、自ら改善していける強い組織となっている。
これが可能となるためには、日常的な社員同士の密なコミュニケーションと併せ、人望のあるリーダーの存在が不可欠だ。人望のあるリーダーがいるからこそ、メンバーは安心して言いたいことを言い合えるのだ。ヘタな事を言ったらどうなるか分からないと感じるリーダーの下では、決して本音での会話はしないだろう。
そのため、同社では、いくら仕事ができても、周りから好かれない人をリーダーにすることはない。いわゆる肝っ玉母さんのような人を育て、リーダーに選抜しているのである。
アンジェラックスの思いに共感する学生
急成長を遂げる同社は、志望する学生も年々増えている。
近年では、4年生大学からの志望者も多く、23年度採用では採用者8名中7名が4大卒の学生となっている。これは、先に紹介したように、業界トップクラスの福利厚生制度の賜物だと思ってしまいがちだが、実は同社では採用時にその点はほとんど強調していない。
そうではなくて、中小エステ企業であるアンジェラックスでなくてはできないことを本音で語っているだけなのだ。
「あなたは本物のプロとなり、人に感謝され、『貴方に出会えて良かった』と言ってもらえる、そんな人生を送りたくはないか。アンジェラックスは、それが実現できる会社だ。苦労は大手に比べれば多いが、お客様に本当に尽くせる経験や、手に残るスキルは遥かに大きい」。
真剣に人生を考えている学生は、福利厚生の充実や上辺だけの美辞麗句よりも、こうした社員の幸せを考える企業の思いに共感するのである。
「あなたを、美しく生きる人へ」
同社の企業理念は「あなたを、美しく生きる人へ」だ。
今後の方向性について、最高人事責任者の大杉一真氏は次のように語ってくれた。
「アンジェラックスという1つの組織を超え、卒業したメンバーを含め、顧客志向でプロフェッショナルなエステティシャンを日本中に増やしていく。そして、自分の可能性にチャレンジする『美しく生きる人』をアンジェラックスブランドから広めていく。そんなステージに高めていきたいと思います」。
女性活躍で遅れる長野県の星として、アンジェラックスブランドの一層の飛躍を期待したい。
(資料)『社員を大切にする経営で元気をつくる』長野経済研究所「経済月報2023年12月号」
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