コロナ後を見据えた観光地経営を担うDMO<2022.7.8>
回復が期待される観光関連業
7月1日、日銀の短観(企業短期経済観測調査)が公表されました。日銀松本支店によると、長野県内企業の6月の業況判断D.I.は製造業が+19%ポイントで前回3月から△10%ポイント悪化したのに対し、非製造業は+2%ポイントながら前回から+8%ポイントの改善となりました。
非製造業の改善に大きく寄与したのが宿泊・飲食サービスで、前回から+49%ポイントとなりました。今後の先行きも、宿泊・飲食サービスは今回より+50%ポイントと引き続き大きな改善を見込んでいます。こうした背景には、新型コロナの影響による行動制限が緩和された状況のもと、善光寺御開帳などの大型イベントが無事に開催され、さらに外国人観光客の受け入れ再開など、観光関連業の回復に対する期待感があると言えます。
こうした中、改めて注目したいのが各地で組織化が進む「観光地域づくり法人(DMO:Destination Management/Marketing Organization)」です。
アフターコロナを見据えた観光地経営の中心を担うDMO
DMOとは、自治体や事業者など多様な関係者の合意形成や、データに基づく戦略策定及びマーケティングなどを行い、観光地経営の視点で地域づくりの舵取り役を担う組織の事を言います。
DMOは国による登録制度となっています。登録制度には2種類あり、まずはDMOを目指す「候補DMO」として登録され、その後、「登録DMO」として登録されることとなります。
現在「登録DMO」の数は全国に241件で、そのうち、登録所在地が長野県内にあるものが13件です。その中には、対象となる地域区分が複数の市町村にまたがるものもあれば、単独の市町村を対象とするDMOもあります。その他、県外のDMOと連携している地域もあります。
ではなぜ、今DMOに注目するのか。今回のコロナ禍により、長期にわたる売り上げ減少で関連事業者は疲弊し、観光産業の脆弱さも浮き彫りになりました。そうした中、今後の地域観光を長期的に持続・成長させていくには、個々の宿泊施設や観光施設といった事業者単体での情報発信やマーケティング戦略では限界があります。地域が一体となって稼ぐ力を引き出し、アフターコロナを見据えた持続可能な観光地経営を行うことが重要であり、その中心的な役割を担う存在として期待されるのがDMOだという訳です。
県内外の特徴的なDMOの事例
ここからは、特徴的な取り組みを行っている県内外のDMOを紹介します。まず、「信州いいやま観光局」で、こちらは飯山市、中野市、山ノ内町など信越9市町村からなる広域観光圏「信越自然郷」の連携事業を担っています。連携する各市町村の豊富な自然を生かしたアクティビティなど旅行商品の企画を行い、インターネットで直販することで中間マージンを抑え、地域事業者の利益確保につなげています。
山梨県北杜市にある「八ヶ岳ツーリズムマネジメント」は、長野県内の富士見町と原村も対象地域とし、多様な関係者を巻き込んで観光地域づくりの合意形成を図っています。その中に地元住民の意向も反映させるため「住民満足度調査」を定期的に実施し、その結果を踏まえ、住民の郷土愛(シビック・プライド)の醸成につながるような観光地域づくりを展開しています。
宮城県気仙沼市の「気仙沼地域戦略」は、東日本大震災の後、観光事業を柱に街の復興を推進するため、市の観光事業のマーケティングやプロモーションを担っています。地元消費を促して地域事業者を活性化させるため、市内の買い物で使える「気仙沼クルーカード」という独自のポイントカード事業を2017年に立ち上げました。現在はアプリに移行していますが、市内の加盟店数は132店舗、市内外の会員数は約4万人、年間利用額は約6億6千万円に達し、また事業で得たデータを誘客に向けたマーケティングにも活用しています。
DMOが地域になくてはならない存在に
紹介した事例先のように、県内でもDMOが地域になくてはならない組織として存在感を発揮し、一過性の観光誘客にとどまることなく、持続的な観光地域づくりに取り組んで欲しいと思います。
DMOの詳細は観光庁のウェブサイトをご参照ください。また、長野経済研究所でもDMOや観光産業に関する情報発信を行っておりますので、ぜひ機関誌「経済月報」やウェブサイト等をご覧ください。
2022年7月8日放送 SBCラジオ「Jのコラム」より
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