自然・アート・住民こそわが村の自慢「中川村」＜2021・12・22＞

 

　天竜川の河岸段丘に広がる美しい田園や果樹園など、豊かな自然に囲まれた中川村。
恵まれた自然環境や穏やかな村民気質を気に入り、芸術家を始めさまざまな人材が移住し、産業や暮らしを支えている。

アートの村のアンフォルメル中川村美術館

　中川村には日本で唯一のアンフォルメル美術館がある。アンフォルメルとは、ヨーロッパ、とくにフランスを中心に1950年代に展開された抽象絵画の作風だ。

　日本における芸術活動の先駆者故鈴木崧画伯が1993年に同村に開館した。現在、そこでは大学教授を招いての講演会や、テーマ毎に芸術作品を集めて企画展を開催するなど、小さいながらも特徴的な活動をしている。

　この存在がアートの村「中川村」の象徴となっている。

ガラス・木工工房、絵画から養蜂まで多彩な村のアーティストたち

　村で活躍する芸術家も多彩だ。

　フリーブローイング技法によるガラス工房「錬星舎」。家具や建具など木工製品を手掛ける工房「アンビシャスラボ」、「タガギガク」。絵画に取り組む「アトリエねすと」、「北島遊氏」。「佐々木健太写真事務所」という写真スタジオもある。

　ほかに村のホームページを見ると、こだわりの生活を提供する活動もアーティストとして紹介されている。ちょっと昔の懐かしい暮らしが宿泊体験できる「古民家七代」。有機野菜を中心に自然食品、雑貨などを販売する「たろう屋」。自家製酵母パンを提供する「暮らしの工房こねり」。そして、養蜂技術を教わりながら、日本ミツバチの蜂蜜の素晴らしさを伝え、養蜂を行う人を増やすべく活動を行っている「養蜂女子部」などである。

　人口4,700人の村としては、異例のラインナップだろう。

移住者を呼び込む住宅施策

　中川村には民間のアパートがなかったため、1970年代後半から若者や子育て世代をターゲットに村営住宅を積極的に建設してきた。いずれも村債で建てたものだが、返済が終わった住居は希望に応じて住人に譲渡している。住み慣れた住宅が格安で手に入るのなら、芸術家の定住も促進されるはずである。

　空き家の利活用についても積極的だ。近年増加している近隣市町村から通勤している人や外国人労働者の定住のための受け皿づくりだ。宅建業者、金融機関、商工会、役場の担当課が集まり、「なかがわ暮らし推進協議会」を立ち上げ、空き家情報の共有と利活用について検討を進めている。

キャンパーの聖地、中川村を目指して

　村には陣馬形山頂を含めて、四徳温泉キャンプ場など４カ所にキャンプ場がある。コロナ禍でキャンプ人気が高まっているが、中川村はキャンパーにとっても魅力的だ。

　ここでも移住者が活躍をしている。中川村を核に伊那谷をキャンパーの聖地にしようと頑張っている移住キャンパーがいる。村が閉館しようとしていた四徳温泉キャンプ場にある森林体験館に、8,500人の入込客を呼び込み見事に蘇らせたのだという。

　また、陣馬形山頂のキャンプ場は、伊那食品工業（株）や（株）ヤマウラから環境保全型のトイレを整備するための寄付がなされ、今や村の観光の大きな拠点に生まれ変わっている。

　良い村というのは、魅力を見出した「外部の力」が背中を押してくれることが多い。

村民という魅力

　最後に宮下健彦村長の村づくりへの思いと、村の魅力について紹介したい。

　「私は、役場の職員を経て村長になりました。職員として住民と接した経験から、行政は、社会的弱者とか困っている人に正面から向き合うことが大切だと感じています。子どもの不登校や引きこもりをはじめ、さまざまな悩みを抱えた人が大勢います。でも、そういう人たちは、どこに相談したらいいのか分からずにいることが多く、なかなか役場にその声が届きません。専門家などと連携してそういう人たちの声をすくい上げ対処していくことが必要だと考えています。」

　「この村の魅力は、起伏に富んだ美しい自然景観と高い栽培技術から生まれる農産物、それに穏やかな村民気質が挙げられます。移住してきた人は、子どもたちが元気に挨拶してくれることに驚いています。そういうほのぼのとした雰囲気が自慢です。」

 

 自然景観の魅力もあるが、村長がより弱い立場の人に寄り添い、それゆえに村民も移住者を暖かく迎え入れる穏やかな気質であることが中川村の真の魅力ではないだろうか。

　「人」というブランドが確立している地域に、人は集うものだと思う。

 

（資料）小澤吉則『わが町わが村を語る“中川村”』「経済月報2021年12月号」長野経済研究所

 

 

 

関連リンク

 

• 小澤 吉則(おざわ よしのり)