エリアに新たな魅力をつくり出す観光宿泊業者<2021.12.9>
観光宿泊業者はコロナ禍で厳しい状況下にあります。そうした中、長野県内で宿泊施設の再生や観光事業の新規立ち上げを通じて、地域観光に新たな魅力をつくり出そうとする取り組みがみられます。
エリアイノベーションで温泉街に活気を〔松本十帖(松本市浅間温泉)〕
「松本十帖」とは、創業300年以上の歴史を持つ老舗旅館「小柳」の再生プロジェクトの総称で、国内各地で古民家や老朽施設をリノベーションし、宿泊の新たな魅力を提案する(株)自遊人(本社・新潟県南魚沼市)が手掛けています。利用客の減少や後継者難等の課題を抱えていた小柳の営業を引き継ぎ、施設の全面リニューアルを進め、コロナ下の2020年夏にプレオープンしました。
敷地内には「HOTEL松本本箱」、「HOTEL小柳」という異なるコンセプトの2つのホテルがあり、他にも、ブックストアやベーカリー、生活雑貨店等を併設しています。また、ホテルから徒歩数分の場所に2つのカフェがあり、そのうちの1つは、宿泊客の受付(レセプション)も兼ねています。宿泊客は、このカフェでチェックインを済ませ、温泉街を散策しながらホテルへ移動します。
松本十帖のプロジェクトは、温泉街のエリアイノベーションの契機になることを目指しています。街が活気に満ちている状況をつくり出すため、地域の多くの事業者や温泉関係者と意見交換しながら、ホテルの敷地外にも集客施設を設け、街歩きを誘発する仕組みを整えました。最近では、異なる事業者が近隣に新たな店舗を構える動きも出始め、街歩きを楽しむ利用者は着実に増えています。
「HOTEL松本本箱」旧大浴場をリノベーションしたブックストア
「酒蔵ホテル」を核にしたまちづくり〔酒蔵ホテル(佐久市臼田)〕
「酒蔵ホテル」は、佐久市の橘倉酒造(株)でかつて酒職人の宿舎に使用していた建物をリノベーションして生まれた新たな宿泊施設です。運営する(株)KURABITO STAYは、20年夏より、同ホテルを拠点に酒蔵で実際の酒造りを行う体験型観光を提供しています。
週末を中心に参加者を募集し、隣接する橘倉酒造にて、酒米の洗米や蒸し、酵母の仕込み、搾りといった日本酒製造の工程を体験してもらいます。参加者は首都圏など県外客を中心に日本酒好きなシニア層から若い女性まで幅広い年齢層で、全体の1~2割はリピーターとなっています。
酒蔵ホテルでは食事の提供は朝食のみにとどめ、昼食や夕食は近隣の飲食店などの利用を促しています。泊食分離で利用者の周遊性を高め、地域経済も活性化したい意向です。
また、同社は地元飲食店や佐久地域の複数の酒造メーカーと「SAKU酒蔵アグリツーリズム推進協議会」を設立しています。同協議会は、地域内の周遊観光や酒蔵巡りなどの仕掛けづくりをしながら、日本酒文化が根付く街として佐久地域一帯でのブランディングに取り組んでいます。
橘倉酒造にて酒造りを体験する参加者
個々の施設の輝きでエリアの魅力を高める
2つの事例は、老朽化した設備を大幅にリノベーションして新たな付加価値を創出しているという共通点がありますが、最も注目したいポイントは、地域一帯での活性化を目指している点です。どちらも地元事業者等との連携を深め、エリア内の周遊性を高める仕掛けづくりを行っています。
このように、エリア内の点となるそれぞれの施設が輝きを放ち、これらが面となって高付加価値の観光スタイルを提供できれば、自ずとエリアの魅力を高め、誘客につながっていくでしょう。
※事例として紹介した2社の取り組みは、経済月報2021年12月号掲載のトピックス「エリアの魅力アップを目指す観光宿泊事業者の取り組み」で詳しくレポートしています。ぜひ、ご覧ください。
(2021.12.9)
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