地方創生のポイント「関係人口」の増やし方~長野県売木村に学ぶ~<2021・08・10>

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最終更新日: 2021年8月10日

売木村 清水村長を訪ねて

  売木村は、長野県で2番目に人口が少ない村だが、その4割は移住者だ。

  移住してきた人の友人・知人が、また移住してくるという好循環が続いているためだという。

  その秘訣は、年間を通じて開催される嗜好を凝らした数多くのイベントや「走る村うるぎプロジェクト」と言った村のブランドづくりだ。

  イベントの仕掛け人でプロデューサーでもある清水秀樹村長に、人が人を呼ぶ村づくりについてお聞きした。

アイデアを即実行、四季折々のイベント開催

  売木村の人が人を呼ぶための仕掛けの1つは、多くの人に村に来てもらうためのイベントを大量に開催し続けてきたことだ。

  清水村長が村づくりのために掲げるキャッチフレーズは「人が訪れる村、訪れたくなる村」である。

  これを愚直に実行してきた。

  生来のアイデアマンであり、思いついたことは何でもイベントとして具体化してきた。

  世にアイデアマンは多いが、このように直ぐに実行できる人はあまりいない。

  それを端から実行してしまうのだというから、人口の4割が移住者だというのも頷ける。

  イベントは四季折々に用意されている。

  春には「春色感謝祭」、「うるぎ渓流釣り祭り」。夏には「とうもろこし祭り」、「Uフェス(旧:うるぎ星の森音楽祭)」、秋には日本一過酷なフルマラソンと銘打った「うるぎトライアルRUN」、「秋色感謝祭」などだ。

  通年で実施している「うるぎ米そだて隊」では、モミ蒔きから脱穀まで年7回、村で米作りのさまざまな作業をしてもらうため村に来てもらう。

  ビジネスでもリピーターづくりには非常に苦労するが、年に7回もリピートしてもらえる仕組みはファンづくりのための秀逸なビジネスモデルと言える。

  さらに村では売木村サポーター制度というファンの受け皿を用意し、登録してもらうことにより「うるサポ」という認定証を発行している。

「走る村うるぎプロジェクト」ブランドで3000人を呼ぶ

  仕掛けの2つ目が2012年に立ち上げられた「走る村うるぎプロジェクト」だ。

  清水村長が村長に就任して間もない頃、マラソンランナーの重見高好さんが練習に村を訪れたことがあった。

  村の標高は800から1000メートルと陸上競技合宿には最適である。

  売木村を陸上競技合宿のメッカに出来ると感じていた清水村長は、すぐに重見選手を地域おこし協力隊として起用し、その後、役場職員に採用した。

  重見選手は、北海道のサロマ湖100kmウルトラマラソンで2位になるなど、世界のウルトラランナーの五指に数えられる名選手に成長した。

  彼の名声が高まるにつれ、合宿地売木村の評価も上がっていった。

  村には徐々に高校や大学の陸上部なども合宿に訪れるようになり、18年には400mトラックを6レーン備えた本格的陸上競技場を建設した。

  現在では、陸上関係者の来村者は年間3000人を超えるまでになっている。

とことん大切にする出会いのご縁

  重見選手との出会いのご縁を生かすことで、「走る村うるぎプロジェクト」は成就した。

  このように清水村長は、出会いのご縁をとことん大切にしている。

  夏に行われている「星の森音楽祭」が始まったのも、「Pai×2(ペペ)」という女性デュオとの出会いがきっかけだ。

  村の農業生産法人が、カボチャの焼酎「いいじゃんか」を作った時、ちょうど同じ曲名だったぺぺの「いいじゃんか」という曲をコマーシャルソングとして使用した。
  実は無断使用だったのだが、ペペの事務所では「よく使ってくれた」と喜んでくれ交流がスタートした。

  清水村長は、その後ペペに売木村の観光大使になってもらった。

  現在、ぺぺが参加する「村の音楽祭」には約1,000人の観客が訪れる大イベントとなっている。

  ミュージシャンがいる地域には、ミュージシャンが集うことはよくあることだ。

  太鼓集団「志多ら」のトッププレーヤーも地域おこし協力隊として移住しており、彼らのファンも多く村を訪れている。

前代未聞の移住者スカウト

  ご縁はあらゆる所にあるものだ。

  それを生かせるかどうかは執念なのかもしれない。

  村民を増やしたいという清水村長の強い執念は、重見選手を村職員にして、ペペを観光大使にするなどご縁を生かし切っている。

  清水村長は、農業雑誌で「アルプスの少女ハイジのような生活をしたい」という福井県でヤギの飼育をしている女性の記事を見つけ、福井県まで移住のスカウトに行ったこともある。
  記事を見て「売木村ならできるのでは」と直感し行動に移した。

  結果、一家で27頭のヤギを連れての移住となった。

  今ではミルクやアイスクリーム、チーズを製造販売するチーズ工房を起業して、新しい産業を村に根付かせてくれている。

売木村を絶対に残す

  清水村長の村政での最大の目標は、人口を増やして、売木村を次代に残していくことである。

  これは人口500人の村にとっては、まさに死活問題だ。

  具体的な目標値として「うるぎ600走る村」というテーマを掲げている。

  つまり、陸上競技合宿を核に売木村を600人の人口にし、それを維持していこうということだ。

  そのためには、ここまで見てきたように、人との出会いを大切にして、関係人口、交流人口をさらに拡大していくことが必要となる。

  第二次地方創生のキーワードは「関係人口」である。

  まずは、関係人口を増やさないことには、移住・定住などあり得ない。

  「人が来ない」「関係人口が増えない」と悩んでいる自治体は多い。

  売木村に学ぶなら、「ご縁を生かす」「とにかくなんでも実行あるのみ」ということだろう。

  「うるぎ600走る村」でランナー育成にひた走る売木村は、地方創生のトップランナーでもあるようだ。


資料)長野経済研究所「経済月報8月号」「わが町わが村を語る 売木村」

 

 

  

 

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