優しく働きやすい職場入門2 (有)ホテルさかえや <2020・11・2>

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最終更新日: 2020年11月2日

できないことはできる人と補い合えばいい

  就業困難者に対する就業支援やフリースクールの運営、そして積極的な障がい者雇用を進めるのが山ノ内町渋温泉の(有)ホテルさかえや(代表 湯本 晴彦氏)だ。

  全従業員39名の中で、知的障害などで障がい者手帳を持つ者3名の他、手帳の交付はないもののハンディキャップを負う者3名、不登校経験者3名などを雇用している。彼らは健常者との賃金の区別なく働けるにまで成長している。

  なお、同社も前回紹介した(株)協和精工と同じく、障がい者の自立に向けた活動が評価され、17年に「新ダイバーシティ100選」に選定されている。

  同社の障がい者雇用の背景には、湯本社長の弟も障がいがあり、引きこもり経験もあったことから、「できることを伸ばせる仕事や職場の仕組みをつくっていきたい」との強い思いがあった。

  この思いから、まず旅館内に自立支援施設をつくり、不登校や引きこもりを支援した。そして、上田市のさくら国際高等学校と提携し、フリースクールの開校も実現した。こうした同社での体験はインターンシップそのものであり、彼らを採用することも多い。

  また、障がい者が生き生きと活躍できるよう、従業員は障がい者や引きこもり経験がある人などとの接し方を専門のカウンセラーから学んでいる。

  同社では、これも仕事の一つだ。障がい者雇用を進めたことで、従業員には思いやりや優しさが自然と身についていった。その結果、接客力が向上し、お客さまの満足度も高まっている。

  「人は不完全なものであり、誰でもが障がい者だ。できるできないということではなく、できないことはできる人と補い合えばいい」というのが湯本社長の経営の考え方だ。

誰もが力を出せる「見える化」の工夫

  多様な人材が活躍できるよう、同社は業務の「見える化」を進めてきた。

  例えば、館内で使われる道具の全てに明確な置き場を決め、置き場にはその道具だと分かるシールを表示している。消費量が多い消耗品は、どこまで減れば、どこに、どれぐらい発注すればいいのかが分かるよう、その場に詳細を書いたカードを用意した。

  これらの工夫の結果、障がいの有無に関わらず、全従業員が同じ水準で仕事ができるようになった。これに合わせ、掃除からフロント、仲居まで全ての業務を全員ができる体制とした。

  一つの業務を複数人ができるため、休みも取りやすくなっている。また、複数の目が通ることから仕事の漏れも防ぐことができ、顧客サービスの向上にもつながっている。

自信が仕事への主体性を生み生産性向上に

  一人前の仕事ができるようになれば、人は自信がつき主体的になる。

  同社では、従業員からの発案・提案も多い。例えば、チェックイン・アウトの時間の改善だ。かつては、チェックインを14時と早くし、チェックアウトを12時と遅くすることで、他社との差別化を図ってきた。

  ところが、このサービスは、労働時間を長くするばかりか顧客の入れ替えの時間が短いため掃除の質の低下を招いていた。

  そのため、チェックインを15時、チェックアウトを10時に改め、長く滞在する場合は、別料金をお願いすることとした。変更に対するお客様からの苦情もなく、労働時間の短縮と質の向上につなげることができた。

  また、良いサービスに納得すれば、お客様はそれに見合ったお金を払っていただける。こうした考えから、従業員は押しつけにならない範囲でグレードの高い部屋やワンランク上の料理をお客様に薦めるようにしている。これらの提案は喜んでいただくことが多く、単価の上昇と同時に顧客満足の向上にもつながっている。

  こうした努力で生み出した利益を、お客さまにさらに喜んでいただけるようWi-Fi環境の整備や駐車場の舗装化に充てている。これらは全て従業員の発案である。

 行動を評価、一生懸命を人は応援するもの  

  このように主体性を持って頑張れるなど、従業員の能力は向上している。この人材育成の根本にあるのが「行動」重視の考え方である。

  仕事の成果は、自分でコントロールすることはなかなか難しい。頑張ったからと言って、売り上げが増えるとは限らないからだ。障がい者にこのような成果を求めてしまっては、「できない」ということになる。

  しかし、行動はコントロールできる。やる気がなくても、やるべき事を決めておけば行動することは可能だ。

  行動できる人材が多い組織は生き生きとしていて強い。弱い組織が議論ばかりで行動に乏しいのとは対照的だ。

  そのため、同社の従業員の評価は「行動」したかどうかだ。

  湯本社長は、頑張って行動した従業員に対しては、たとえ成果は出なくても皆に公表し褒めるようにしているという。

  こうした企業風土の中、障がい者も健常者もとにかく一生懸命に行動している。従業員の一生懸命さに心打たれ、同社のファンになるお客さまは多い。

  一生懸命に頑張る人を、人は応援するものなのである。

 

 優しく働きやすい職場入門3では、自社のテーマに「ノーマライゼーションの実践」を掲げ、障がい者雇用を通じ、働く人の幸せの実現に日々努力を続ける長野リネンサプライ株式会社を紹介したい

 

(初出)長野経済研究所「経済月報10月号」『県内の優しい職場を訪ねて』

 

 

 

 

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