優しく働きやすい職場入門1 (株)協和精工 <2020・10・22>

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最終更新日: 2020年10月22日

つながり・やさしさ・わざで 「いい会社をつくろう」

  下伊那郡高森町で地域から頼られ、雇用の大きな受け皿としての役割を担っているのが(株)協和精工(代表 橋場浩之氏)だ。

  現在、全従業員185名の中で、自閉症、てんかん、発達障害などを持つ障がい者6名を雇用し、地域の養護学校から卒業生の就職先としての相談も多い。16年には多様な人材を生かしていることが評価され、経済産業省「新ダイバーシティ経営企業100選」※1 に選定されている。

  同社の企業理念は「いい会社をつくろう」だ。

  いい会社というのは、どんな人にもいい会社であり、障がい者にとってもそれは例外ではない。この理念は会長である堀政則氏がつくったものだ。堀会長は自身の長男が重度の障害を持ち、19歳の年に死別されている。そうした体験もあり、どのような人でも働ける場所をつくる事が必要だと、障がい者雇用に力を入れてきた。

  この思いを引き継いだのが社長の橋場浩之氏だ。堀会長のつくった企業理念を実現するためには、さらに具体的なメッセージが必要と考え、「つながり」「やさしさ」「わざ」という3つの言葉を添えた。この「やさしさ」が同社の障がい者雇用を支えている。

  もう一つ橋場社長の経営の基本にある考えが「企業は公器である」、「地域のために企業はある」というものだ。このため、地域での「困り事」は積極的に引き受けてきた。障がい者に働く場を提供するのもその一つだ。橋場社長にとって、障がい者雇用は地域企業として当たり前のことなのだ。

養護学校出という偏見は間違っている

  同社の障がい者雇用は、養護学校から依頼され、05年に重度の自閉症を持つ男性を引き受けたのが最初だ。彼は入社当初、仲間と話すことすらできなかった。しかし、仕事振りは真面目で、同じピッチで乱れずに作業を進めることができた。コミュニケーションは苦手だが、単独作業が得意ならそれを伸ばせばいい。同社ではそうした方針で、通常2カ月で覚えてもらう仕事に2年をかけた。

  10年経った頃には、健常者に仕事を教えるまでに成長し、給料も健常者と変わりはない。仕事に自信を持ったことから、今では仲間と積極的に話をするようになっている。

  「最初からダメだという烙印を押してしまったら、彼は一生働くことができなかった。じっくりと育てることで、強みを引き出せばいい」、「養護学校出だからと偏見を持つのは間違っている」。橋場社長の実体験である。

  障がいも個性の一つ

 08年のリーマン・ショックが経営に与えた影響は甚大で、それまでの電機関連の仕事がなくなる中、新たに医療分野への参入を試みた。

  その後、業績は拡大し、中途採用も増やした。これまでの閉鎖的だった社風を改めようと、建設業の営業担当やファミレス店長、美容師や左官業など多彩な人材を採用した。障がい者も12年に1人、15年から18年までは毎年1人づつ採用し、この結果、従業員はリーマン・ショック前の倍に膨らんだ。

  全従業員の約7割が中途採用で多様な構成となり、障がいも個性の一つというぐらいの位置づけになった。そして、障がい者全員を戦力化できた結果、10年に始めた医療分野は、6年目には1億円を売り上げるにまで成長した。

 多様性の組み合わせこそが経営  

   障がい者が健常者と変わらない働きができる仕掛けが、「多様性の組み合わせ」だ。

  中途採用した人材の能力は多彩で、得意な部分はさまざまだ。同社では、こうした人材一人一人の強みを見いだし、組み合わせて仕事に取り組んでいる。障がい者も同様であり、個人の強みを引き出し、他のメンバーと組み合わせることで戦力化してきた。この多様性の組み合わせが同社の強みであり、成長を遂げてきた秘訣である。

  そのため、同社が管理職に最も求める能力は、マネジメント力ではなくコーディネート力だという。前述の05年に採用した彼のように、作業はゆっくりだが根気強く正確に進めることができることは、逆に多くの健常者にはない強みだ。何よりも正確さが求められる工程を担ってもらうことで、他に強みを持つ健常者と組み合わせて仕事を完成させている。

基本にある従業員の優しさ

  この「各人の強みを見いだしては組み合わせ、成果を出す」という地道な努力は、管理者のみならず一般従業員が納得をしていなければできるものではない。

  同社の従業員は基本的に皆優しい。同社の風土が人を優しくするのだ。

  障がいの程度や種類が異なる障がい者に対し、教え方を変えながら、一人前になるまで根気強く教え続ける。障がい者を特別視しない、差別をよしとしない風土が同社にはある。そうした風土ゆえに、優しい従業員が採用に応募してくるという好循環が生まれている。

  「誰にとっても働きやすい職場」。同社の障がい者雇用が生み出した成果だ。


  優しく働きやすい職場入門2では、就業困難者に対する就業支援や積極的な障がい者雇用で優しい職場を実現する山ノ内町渋温泉の(有)ホテルさかえや を紹介したい。

 

 ※1)女性、外国人、高齢者、障がい者等、多様な人材の能力を発揮し、競争力の強化を図るダイバーシティ経営を実践している企業に対する経済産業省による表彰制度。

 

(初出)長野経済研究所「経済月報10月号」『県内の優しい職場を訪ねて』

 

 

 

 

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