優しい職場だからこそ頑張れる<2020・10・15>

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最終更新日: 2020年10月15日

  

 9月21日のコラムでは、「優しさシリーズ」第3弾として、「人を大切にする経営学会」の内容を紹介した。

 今回は、弊所機関誌「経済月報」10月号に記載したレポート「優しい職場を訪ねて」から、障がい者雇用に取り組む長野県内の優しい職場について紹介したい。
 「優しさシリーズ」第4弾である。

 実際の優しい職場紹介の前に、そもそもの障がい者雇用の現状についておさらいしておきたい。

企業には障がい者雇用の義務がある

   「長野県障がい者プラン2018」によると、17年3月末時点で県内に障がい者手帳を持つ障がい者は13万191人となっており、障がい区分では、身体障がい者が93,281人、知的障がい者が18,159人、精神障がい者が18,751人となっている。

 同時点の長野県の人口は約208万人であるから、人口比ではおよそ6%、16人に1人は障がい者ということになる。同様に県内の世帯数は約81万であり、単純計算で6世帯のうち1世帯には障がい者がいることになる。

 悩みを抱える世帯は少なくない。

 障がい者を持つ親は、自分が世を去った後も子供が食べていけるかどうかは切実な問題だ。また、障がい者自身も「働いてみたい」、「自分でお金を稼いでみたい」、「親に頼らずに生きていきたい」と多くが望んでいる。

 ところが県内の民間企業で働いている障がい者は6,769人※1と、障がい者手帳を持つ者の5%程度でしかない。残りの95%の人は、自宅やグループホームのような施設にいるか、訓練施設で訓練を受けているといった状態にある。全ての障がい者が働ける状態にあるとは思えないが、5%つまり20人のうち1人しか働けていない状況は問題である。

 障がい者は一定の確率で必ず生まれてくるし、事故や加齢により誰もが障がい者になる可能性はある。こうした状況を考えるなら、社会の公器といわれる企業には、障がいのある人を雇用する義務がある。税金を払っているだけでは、義務を果たしたとは言えない。

 人は働くことで幸せになれる

 人が幸せになるためには、働くことが欠かせない。

 日本の障がい者雇用の先駆けである日本理化学工業株式会社が、障がい者雇用に力を入れている理由がそれだ。

 同社のホームページを拝見すると次のような説明がある。

 同社の故大山泰弘会長は、多くの障がい者を雇用しようと思った理由として、禅寺のお坊さんから「人間の究極の幸せは、1つは愛されること、2つ目は褒められること、3つ目は人の役に立つこと、4つ目は人に必要とされること。この4つ。福祉施設で大事に面倒をみてもらうことが幸せではなく、働いて役に立つことこそが人間を幸せにするのです」※2と教えてもらったからと述べている。

 そう考えるなら、社会の公器である企業こそが障がい者を幸せにできる最高で最適な存在ということになろう。

 会社都合に障がい者を合わせようとするなら雇用はできない。

 これほど重要な使命があるにも関わらず、企業が障がい者を雇用できない理由は何なのか。

 長野県の報告書※3によると、企業が障がい者を雇用していない理由としては、「障がい者に適した業務がないから」(48.6%)が最も多い。次いで「職場の安全面の配慮が適切にできるか分からないから」(23.6%)、「施設・設備が対応していなから」(17.8%)、「法定雇用率の適用対象でないから(45.5人未満)」(16.8%)などが続く。

 これらの回答から見えてくるのは、障がい者雇用に対する理解がいかに不足しているかということだ。

 健常者だけが働くことを前提とすれば、障がい者に適した業務や障がい者に対応した施設・設備などあろうはずがない。業務や施設・設備は、障がい者の受け入れに合わせて用意すべきであり、その中で安全面の配慮をしていくべきである。

障がい者に合った仕事をつくる優しい経営  

    以降紹介する企業は、障がい者に適した業務をつくり、設備を整え、安全面に配慮している。

 企業の都合に障がい者を合わせようとするのではなく、企業の職場環境や業務を障がい者に合わせ、障がい者の特性を生かした仕事に就けるようじっくりと見極めるといった優しい経営が行われている。

 そうした優しい経営のもとでは、障がい者も健常者と遜色のない働きができるようになっている。

 できないことはできるように時間をかけて教える。それでもできないことは他の人と補い合う。1人でできないなら2人でやればいい。

 誰にでも得意なことはあり、それを見つけ、生かせば、障がい者が働ける可能性は出てくるのである。

 

 次回から3回にわたり、長野県内の優しい会社での取り組みや工夫を「働きやすい職場入門」シリーズとして紹介していきたい。

 第一回目に登場いただく下伊那郡高森町の株式会社協和精工では、「できないことはできるように時間をかけて教える」を実行している優しき地域けん引企業である。

 


※1  2019年「障がい者雇用状況の集計結果」長野労働局(2019年12月25日)
※2  日本理化学工業株式会社HP「日本理化学のもう一つの使命」を当研究所加筆修正
※3  長野県産業労働部労働雇用課「2018年長野県女性雇用環境等実態調査報告書」(2018年12月)

 

(初出)長野経済研究所「経済月報10月号」『県内の優しい職場を訪ねて』

 

 

 

 

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