新型コロナ禍の中で、新たな観光サービスの芽<2020・6・23>

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最終更新日: 2020年6月23日

最新データの公表で新型コロナウイルスの影響が明らかに

   新型コロナウイルスの感染が拡大して以降、長野県にとって大きな影響を受けた産業の1つが宿泊業や飲食サービス業などの観光関連産業です。特に宿泊業は、例年であれば春の行楽期を迎えるはずでしたが、今年は行動自粛や休業要請に伴い利用者数は大きく落ち込んでいます。こうした落ち込みの状況を示すデータが徐々に公表され始めています。
 観光庁の宿泊旅行統計調査によると、3月の長野県の延べ宿泊者数は、前年同月比40.0%減少し76万人、外国人の延べ宿泊者は、同78.4%減の2.2万人と大幅な落ち込みとなりました。また、3月の宿泊施設の客室稼働率は22.0%と、前年同月の32.7%を大きく下回るとともに、統計データのある2011年以降、各月の中で最低水準となり、東日本大震災時を下回りました。
 さらに県域をまたいだ人の移動にも大きな影響が出ています。4月の信州松本空港の定期便利用者数は、全体で2,086人と前年同月の8,915人から8割近い減少となりました。また、中日本高速道路のデータによれば、4月の高速道路インターチェンジの通行量(出入合計台数)は、県内にある主要インターチェンジが前年比で3割を超える落ち込みとなり、特に観光地である軽井沢ICでは6割を超える落ち込みとなっています。今後も県内外の利用者数の落ち込みから、さらに厳しい状況がデータで示されるとみられます。 

宿泊、飲食業の影響 月平均で約400億円の減収に

 こうした県外からの観光客利用の落ち込みは、宿泊業や飲食サービス業の売り上げにどの程度の影響するのか。売り上げ等が把握できる総務省「2016年経済センサス‐活動調査」をもとに簡易的に計算してみました。同調査によると、2015年1年間の売り上げは、宿泊業・飲食サービス業全体で、5,349億円となっています。これを単純に月平均すれば446億円に上ります。つまり、自粛や休業要請により営業が1カ月ストップした場合、400億円を超える金額が県内経済から失われることになります。そして回復が遅れ、厳しい状況がさらに継続すれば、県内全体の従業員数の約1割を占める観光産業の雇用面にも影響が及ぶことになります。 

注目される新たな観光サービス

 こうした人の移動によって成り立つ観光産業は今後も厳しい状況が続くと考えられますが、この厳しい時にこそ思い切った発想の転換を行い、新しいことにチャレンジをしてみることも必要です。
 その1つがオンラインを活用した観光体験サービスの提供です。リモートトリップなどとも呼ばれ、外出せずに家に居たまま、旅行をしているかのような体験ができるサービスです。例えば、Airbnbではその土地に行かなければ出来ないような海外各地の生活や料理などがオンライン体験できるサービスを低価格でスタートさせています。また、国内でも島根県海士町の株式会社島ファクトリーでは、「リモートトリップ」を活用したファンづくりの試行を始めています。同ツアーに申し込むと、事前に海士町の特産品が自宅へ配送され、オンラインシステムを通じて、届いた特産品(岩牡蠣)の食べ方などを教えてもらいます。さらに海士町在住の社員が島の自然、島の魅力や、暮らしについても参加者に情報発信します。地域のファンを増やし、次に海士町を訪れるためのきっかけづくりにもなる取り組みです。
 これからオンラインでも人との交流が当たり前にできる時代になります。その中で新しいサービスが数多く生まれる可能性がありそうです。将来的には、現代に新たに誕生したユーチューバーのように、オンライン上の旅行案内人である「リモートツアーコンダクター」などが誕生する時代が来るのかもしれません。

(初出:2020年6月17日付 南信州新聞「八十二経済指標」)

 

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