新型コロナウイルスに叩かれる観光「隗から始めよ」<2020・05・29>

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最終更新日: 2020年5月29日

小川村染野村長の教え「ここはいいところだからいらっしゃい」

    長野市の隣にアルプスの絶景が拝める小川村がある。ここは、おやき文化発祥の地としても有名であり、おやき作りを女性、高齢者が担っていることも村の魅力だ。この魅力に惹かれ移住を決める人も多く、2017年には2,400人ほどの人口規模にもかかわらず100人を超える転入者を迎えている。
   この美しい村の染野隆嗣村長は、移住施策で大切に考えている点を以下のように教えてくれた。
  「今、地方創生ということで、全国で人口の奪い合いだとか、行政サービス合戦みたいなことが繰り広げられています。移住者に対するサービスも大事ですが、もともと住んでいる人たちにとって村が素晴らしくなければ、いくら移住定住をPRしても意味がありません。人を呼ぶにしても、まずは村民自身が『ここはいいところだから、いらっしゃいと』いう雰囲気になることが重要で、村民本位の行政サービスが大原則だと考えています。」
  「隗より始めよ」という言葉があるが、先ずは地元民が地元を良いと思うことが移住を進める基本ということだろう。当然に観光にもこうした視点は欠かせない。

インバウンド観光客激減の中、観光業の打つ手は

 長野県民は比較的、長野県が好きだ。「いいところだから、いらっしゃい」という機運がある。それだからだろうか、近年、外国からのインバウンド観光客が急増してきた。街中でも外国人を日常的に見かけるようになっていた。インバウンド観光客で業績を回復させた旅館ホテルも少なくない。
  ところが、そうした中を新型コロナウイルスが襲い、インバウンド観光客は激減した。急激に伸びていただけに観光業への影響は甚大なものとなっている。世界的に広がっている情勢を考えると、インバウンド観光客の戻りは相当時間がかかるだろう。一体、インバウンド観光客なしに長野県観光はやっていけるのだろうか。
  インバウンド観光客の長野県観光に及ぼす影響はいかほどなのか。慌てて観光庁の資料(注1)を開いてみた。それによると、長野県の観光入込客数は4,518万人であり、内訪日外国人は483万人だ。同じく観光消費額も年間8,146億円の内、訪日外国人によるものは1,008億円と1割程度だ。統計資料を見る限り9割は国内の観光客であり、長野県観光は国内観光客により支えられているということがわかる。
  つまり、インバウンド観光客に頼れない期間は、再び国内観光客をターゲットに頑張ってみるという路線が考えられる。

県内観光客の芽を育てよう  

  今回のコロナ禍では、もう一つの難題も突き付けている。「他県からはご遠慮ください」というものだ。感染者が多い都道府県からの来客は感染リスクを高める。しばらくは交流を断つことは理に叶っている。
  そうであるなら、国内での感染が治まるまでは長野県民を対象とした観光業で踏ん張るしかない。考えてみるなら、経済活動は取引先が近隣で済むならそれに越したことはない。コストがかからないし、移動も短距離ですむ。地球規模的な問題である二酸化炭素の削減にも貢献できる。
 では、長野県観光の中で長野県観光客の占める割合はいかほどか。長野県の資料(注2) によれば、2018年のそれは36%となっている。9割は国内観光客と胸をなでおろした程ではないが、4割という数字は絶望的に低いわけでもない。この芽を育てればいい。
  「隗より始めよ」に話を戻すなら、これを機に長野県民に愛される観光地作りに精を出すことこそ、将来、各地から選ばれる観光地作りにつながるのではないか。県民自身も「いいところだから、いらっしゃい」という機運はあったが、実際に県内の観光地で宿泊をしたかと言えばまだまだだろう。
  事業者は、県民の新型コロナウイルスによる3密ストレスからの回避場所、安全・安心の聖地、さらに欲張れば「地上の楽園」等々、としての滞在ニーズに応えるような施設・サービス作りに努めることが必要だ。そして、リモートワークの受け皿としてWi‐Fiなどネット環境を整備した働くリゾートとなってもいい。この機に他の観光地に負けない魅力を作り、それをしっかりとPRしていくことが重要だ。
  そして、県民も改めて地元の良さに気づく良いチャンスだ。子供が東京に行ったまま戻ってこないと嘆く前に、幼少の頃から長野県の素晴らしさを県内旅行で体験させるというのは有益に思う。年老いて、子供がありながら身内がいないと嘆くのはいかにも知恵がない。 

隗から始めよ  

  灯台下暗しとはよく言ったものだが、長野県観光はまさにそうしたものだったかと思う。
  コロナ禍をチャンスに長野県観光が地元から支持されるという「強い経営の基盤づくり」ができれば素晴らしい。観光版地産地消をしっかりと推し進めることで、外部から稼いだお金は地域で循環し、長野県経済は足腰が強いものになる。
  まずは、県内観光客、そして国内観光客、最後にインバウンド観光客というのが順当だ。忌まわしき新型コロナウイルスだが、「隗から始めよ」という原理原則を教えてくれているように思う。

 

(資料)小澤吉則「わが町わが村を語る『小川村』」「経済月報」長野経済研究所

 (注1)観光庁「観光入込客統計に関する共通基準」に基づく長野県観光入込客統計調査   

(注2)長野県「観光地利用者統計調査結果」

 

 

 

  

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