2020年代も「守破離」が仕事の基本<2019・12・24>
2010年代最高の名勝負
今年はプロテニスで大阪なおみ選手が全豪オープン初優勝を飾り、プロゴルフでは渋野日向子選手が「AIG全英女子オープン」で日本人女子選手として42年ぶりの海外メジャー優勝を果たした。さらには、日本開催されたラグビーワールドカップでは初のベスト8に進出するなど、日本スポーツの躍進が目覚ましい年だった。その中でも私が最も衝撃を受けたのが、プロボクシング井上尚弥選手の「ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(以下WBSS)」での優勝だ。
個人的にボクシングが最も好きなスポーツであることがその大きな理由なのだが、井上選手のWBSSでの優勝シーンは2010年代最高の名勝負だったと思う。WBSSは、WBA(世界ボクシング協会)、WBC(世界ボクシング評議会)、IBF(国際ボクシング連盟)、WBO(世界ボクシング機構)の各ボクシング団体の中での最高の王者を決めようとするものだ。そのため、参加資格は、いずれかの世界王者、または、世界ランキング15位以内のものと定められた。各団体での負け知らずの猛者たちが、トーナメントで優勝を競った。井上選手は勝ち上がり、優勝決定戦では、5階級制覇のノニト・ドネア選手(フィリピン)を11ラウンドでダウンを奪い、3-0の文句なしの判定で倒した。もともと井上選手はWBCスーパーフライ級王者、WBAスーパー級王者、IBFバンダム級王者と3階級を制覇している世界王者だが、WBSSで優勝したことで、バンダム級では実質世界一強い選手になったと言える。
井上選手は何故それほど強いのか
井上選手の真の強さについて専門的なことはかわらないが、様々な報道からの情報は共通している。それは、類まれなる才能に加え、凡人ではまねができないぐらい基礎練習が徹底している、基本動作ができているということだ。「毎日の単調な反復練習を継続できること、これが世界王者になる条件だ」と井上選手が所属する事務の大橋会長も述べている。
井上選手がボクシングを始めたきっかけは、現在セコンドを務める父親の影響からだ。父親も本業である塗装業をする傍らボクシングに魅せられ、井上選手が幼少の頃ボクシングを始めた。それを見た井上選手も「これは」と感じるところがあり始めたようだ。
父が井上選手に最初に課した練習が、大きな鏡の前で、何度も何度も構えとステップを繰り返させる基本練習だった。父親自信、塗装の仕事をする中で、師匠からは「1つのことがしっかりできるようになってからでないと、次の段階には進めない」という教えを受けてきた。仕事もボクシングも「基礎が大切」だと実感していた。基礎を徹底した井上選手は、強豪選手との修羅場の打ち合いになっても無意識に「基礎の型」がでるために大きく崩れることがない。
守破離を頑なに守る先にある飛躍
こうした基本に忠実であることが、上達の秘訣だという教えは、武道や茶道・華道などの道で「守破離」として教えられてきた。「守」は、流派の型や技を忠実に守り、基本を身につける段階。「破」は、他の流派などから良いものを取り入れ、発展させる段階。「離」は、それらから離れ、自分独自の新しいものを生み出し確立させる段階。このように解釈できる。井上選手は、この「守」を徹底したために、「離」がずば抜けたように思う。
さて、我々仕事でも全く同じことが言える。基本を徹底的に学ぶことが、良い仕事につながる。
「守」の時期に優秀な先輩や上司の仕事振りを真似したり、テキストなどで仕事の本質を学ぶ。こうして基本型を身につけた人だけが、次の「破」で仕事の成果に多様性が出てくる。そして「離」の時期に楽しさが分かり、一気に飛躍することができる。基本を身につけていないのに、自己流で色々やっても、一流の成果はなかなかでないようだ。
では、基礎を飛ばしてきてしまった人はどうしたらいいのか。そこは「基本に立ち返る」という言葉がある。いつでも行き詰まったら、基本に立ち返ることで道は開けるようだ。
新たな2020年代を迎え、「守破離」を胸に再起動してきたい。
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