業績の悪い企業の原因は、「社員の不幸」かもしれない<2018・10・4>
人を大切にする経営学会全国大会から
当研究所は「人を大切にする経営学会」に加入していますが、9月15日に全国大会が行われました。そこで慶応義塾大学大学院の前野隆司教授から「社員が幸せになれば会社が伸びる」という「経営学」を学びました。ややもすれば社員の苦悩の上に会社の成長があると思いがちですが、実は幸せの先に企業の成長があるそうなのです。
今回はこのワクワクする研究成果を、私感も交えお伝えします。
私達が日頃、幸福を感じるのは、給料が上がったとか出世した、または欲しかったモノが手に入ったなど、お金やモノ、地位に関することが多いかと思います。しかし、これらの幸福感は、いずれも短期的ではかないものです。一方で、自由とか健康とか愛情などは、長期的に幸福感をもたらしてくれますが、なんとも捉えどころがありません。
そこで、前野教授は大規模なアンケート調査を実施し、その分析結果から「人が幸せになるための4つの因子」を見出しました。
人が幸せになるための4つの因子
人が幸せになるための4つの因子とは、(1)「自己実現と成長」、(2)「つながりと感謝」、(3)「前向きと楽観」、(4)「独立とマイペース」です。
前野教授はこれらを、(1)「やってみよう!」因子、(2)「ありがとう!」因子、 (3)「なんとかなる!」因子、(4)「あなたらしく!」因子と、分かり易く表現されています。
(1) 「やってみよう!」因子。どんな小さなことでも、わくわくする趣味ややりがいのある仕事を持っている人は幸せであり、それらを通じて成長の実感や自己実現などの達成感が得られれば、幸福度はさらに高まります。
(2) 「ありがとう!」因子は、誰かを喜ばせたり、逆に愛情を受けたり、要は、人とのつながりによって、人は幸せを感じることができます。更に多様な人との繋がりが多い程、幸福度が高くなります。
(3) 「なんとかなる!」因子は、悲観的ではなく、常に楽観的でいること。根拠のない自信を持つことも、幸福のためには必要です。
(4) 「あなたらしく!」因子は、他人の目や周囲を過度に気にせず、自分をはっきり持つこと。自分は自分と考えることで、確かな幸せを呼び込むことができます。
これら4つを完璧に満たすのはなかなか難しいことですが、1つも欠けることなく4つの因子をバランスよく高めたほうが幸せになれるということです。
企業に求められる社員の幸福度を高める仕組みづくりや環境整備
では、この幸福学と企業にはどのような関係があるのでしょうか。
欧米での研究によると、「幸せな社員は不幸せな社員よりも、創造性が3倍高い」、「幸せな社員は不幸せな社員よりも、労働生産性が1.3倍高い」といった傾向がすでに明らかになっているそうです。
そうであれば、企業は社員の「幸せの4つの因子」を高められるように努めれば、業績も良好になる筈です。
前野教授は、自ら企業コンサルタントも務められており、その体験などから具体的方法も説明されました。
「やってみよう」では、どんな仕事でもやらされるのではなく、やりがいを持ってワクワクしながら取り組めるような仕掛けが必要です。会社は自分のものと思えるぐらいの主体性を持ってもらうことです。これにより、「ありがとう」も高まってきます。仕事にやりがいを感じているため、「自己受容」ができあがります。そうすると他人を認め、受け入れる「他者受容」も出来てきます。その結果、お互いに信頼し、尊敬し合う環境が築け、前向きに挑戦できる組織となります。この基盤ができれば、「なんとかなる」も、「あなたらしく」も高まっていきます。
「幸せの4つの因子」はそれぞれが深く関わり、高め合うことがとても重要となります。
「日本でいちばん大切にしたい会社」の特徴とも共通する幸福学
前野教授は、「人を大切にする経営学会」会長の坂本光司さんの著書「日本でいちばん大切にしたい会社」で採り上げている各企業についても「幸せの4つの因子」を持っていることを確認されています。
その中の1社で現在「人を大切にする経営学会」の副会長も務められる株式会社日本レーザーの近藤宣之社長は、著書「ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み」の中で、社員が絶対に辞めない3つの条件を述べられています。その3つとは、(1)「社員が会社から大事にされていると実感している」、(2)「会社は自分のものだという当事者意識を持てる」、(3)「言いたいことが何でも言える明るい風土がある」です。これらは、(1)「ありがとう」、(2)「やってみよう」、(3)「あなたらしく」とも考えられます。この総体が「なんとかなる」という楽観につながるように思います。
また、伊那食品工業株式会社は、「日本でいちばん大切にしたい会社」の初刊で紹介され、第8回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で中小企業庁長官賞を受賞するなど、「人を大切にする経営」を実践する代表的企業です。同社の社是は「いい会社をつくりましょう」です。「いい会社」については、「単に経営上の数字が良いというだけでなく、会社をとりまくすべての人々が、日常会話の中で 『いい会社だね』と言ってくださるような会社の事です。『いい会社』は自分たちを含め、すべての人々をハッピーにします。そこに『いい会社』を作る真の意味があるのです」と説明をしています。同社の塚越寛会長は、「社員ひとりひとりのハピネス(幸)の総和こそ、企業価値であると確信するこの頃です」と自社のホームページで述べられています。
まさに、社員の「幸福度」が高まるような経営をした結果が、「日本でいちばん大切にしたい会社」を作ったと言えましょう。
急激に人口減少・高齢化が進む中、社員一人一人の頑張りで生産性を上げていくことがとても重要になっています。そのためにも、社員を大切にして、幸福感を持ってもらえるような経営が求められています。
やってみよう!ありがとう!なんとかなる!あなたらしく!が溢れる会社作りをしていきましょう。
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