期待される雇用環境の実態を示す総合指標

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最終更新日: 2016年10月6日

雇用環境の動きを示す重要な指標「有効求人倍率」

    景気の現状を知る上で我々の身近なものの1つが雇用動向です。そして、その動向をみる際の代表的な指標として完全失業率や労働力人口、有効求人倍率などがありますが、特に地域の雇用情勢をみる上では「有効求人倍率」が注目されます。この指標は、求人数が求職者数の何倍あるかを示す数値で、1倍を上回れば、職を探しやすい環境にあると言えます。
   長野県の有効求人倍率は、リーマン・ショックによる景気後退で09年には0.39倍まで低下しましたが、現在は1.42倍(16年8月)まで改善しています。
    ただ、最近の動きについては、数値の上昇だけで判断すると実態を見誤る可能性も出てきています。

人口構造の変化などにも留意が必要

    現在は従来とは異なる労働環境にあります。その1つが人口減少に伴う働き手の減少であり、これに伴って求職者数が減少している可能性があります。有効求人倍率の算式の分母である求職者数が減ると、求人数は変化しなくても倍率は高くなりますので、その分割り引いてみるべきかもしれません。
    また、求人と求職のニーズが一致しない「雇用のミスマッチ」という問題もあります。ミスマッチの問題は有効求人倍率の数値からはみえてきません。全体の有効求人倍率が1倍を超えていても、職種別にみると、「専門的・技術的職業」、「サービスの職業」など求人数が求職者数を大きく上回る職種がある一方で、「事務的職業」、「運搬・清掃等の職業」は1倍を下回る状況が続いています。1倍を大きく上回る職種では、深刻な人手不足に陥り、通常の営業を行うために必要な従業員の確保もままならず、新規求人が増えている可能性もあります。
     ミスマッチは従来から問題となっていましたが、最近では特に小売業や飲食業などでこうした問題に拍車がかかっており、店舗の新規出店などにも影響が広がってきています。 

受理地と就業地で異なる有効求人倍率

    一方、上記の押し上げ要因とは逆に、低く算出される要因もあります。通常用いられている有効求人倍率は、各都道府県の公共職業安定所が受理した求人数をもとに算出(以下、受理地有効求人倍率)されています。ところが、大企業などでは、全国各地の求人を本社が所在する公共職業安定所に一括して申請することが多いため、実際の就業地の有効求人倍率に反映されていない場合もあるからです。
    こうした点を修正して実態にできるだけ近づけたのが「就業地別」有効求人倍率です。この指標は参考指標として厚生労働省が公表しています。都道府県別にみると、企業の本社が集積している都市部(東京、大阪、愛知など)では「受理地」の有効求人倍率が、地方部では「就業地別」の有効求人倍率の方が高くなる傾向にあります。実際に長野県の7月の就業地別有効求人倍率は、1.50倍となっており、受理地有効求人倍率の1.42倍に比べ高くなっています。このように地方の労働環境を把握する上では、「就業地別」の有効求人倍率の動きを並行して見ていくことも重要です。

期待される雇用環境の実態を示す総合指標

    地域の雇用環境の動きを示す有効求人倍率は便利で代表的な指標ですが、雇用の実態を見る上で留意する点も多くあります。また、地方創生でも雇用環境の改善は重要な施策になっていますが、その実態を表す地域の指標は限られているのが現状です。
   労働人口の減少の動きやミスマッチの問題なども含め、総合的、多角的に捉えられるような指標の作成を今後検討していくことが期待されます。
 

(初出:2016年10月5日付 南信州新聞「八十二経済指標」)

 

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