製造業の設備投資に慎重姿勢

   当研究所は、長野県内企業の設備投資の動向を調査する目的で県内企業約700社を対象に「設備投資動向調査」を年2回実施しています。6月には年度当初計画を調査し、11月には年度の実績見込額と当初計画に対する修正状況を調査しておりますが、今回は11月調査から2015年度計画に対する修正状況を中心にご報告します。
   調査は県内の中堅中小企業を中心にアンケートとヒアリングをもとに前年度実績額、年度当初計画額、年度実績見込額を尋ね、前年度や当初計画に対する変化を分析しています。
 15年度の実績見込額は、全産業で前年度に比べ9.0%の減額見込みとなりました。業種別では製造業が同△2.7%、非製造業が同△21.6%といずれも減額見込みです。また修正状況では、全産業で当初計画に対する計画修正率は△1.8%の減額修正となりました。業種別では製造業で△4.2%の減額修正となった一方、非製造業では4.7%の増額修正です。

製造業で設備投資を減額修正

   今回の調査で注目したい点は当初計画からの修正状況です。全産業の実績見込額は当初計画額から減額されていますが、大きな要因は製造業の減額修正です。製造業の当初計画額は前年度に比べプラス1.5%と増額計画となっていました。しかし中国の景気減速に伴う先行きへの懸念や需要見通しの悪化を受け、電気機械や精密機械を中心に減額修正され、結果的に実績見込み額は減額見込みに転じました。一方、非製造業では前年度に比べ二桁の減額となりましたが、製造業とは逆に当初計画に比べ増額修正されています。
 こうした投資計画の修正状況は、足もとの景況感を映じているものとみられます。四半期ごとに実施している「業況アンケート調査結果」によれば、最近の企業の景況感は非製造業の水準が高い一方で、製造業では先行きに対する慎重な姿勢がみられ低い水準となりました。つまり、設備投資に比較的慎重であった非製造業は、収益の持ち直しで景況感が改善し、これまで抑制していた維持・更新投資を中心に上方修正する一方で、製造業は中国の景気減速の影響などから先行きの見通しに慎重になり、下方修正に至ったとみられます。
 製造業の投資計画の修正理由でみてもその傾向は明らかです。減額修正した理由として「収益見通しの悪化」という回答割合が最も高く、次いで「需要見通しの悪化」のほか「投資時期の変更」と先送りした企業も多くなっています。

底堅さもみられる製造業の設備投資

   ただ、今年度の設備投資には底堅さもみられます。企業数ベースでみた設備投資DI(前年度に比べ「増加した企業割合」-「減少した企業割合」)をみると、前年度に比べ増加した企業の方が多くなっています。これは今年度に政府が実施した「ものづくり補助金」の利用増加なども背景にあり、こうした補助金を活用した企業が多いとみられます。
   政府は景気回復を着実なものにするため、設備投資をさらに10兆円増やそうとしています。ただ、先行きの経済動向が不透明な中で、人手不足や人件費の上昇、価格転嫁の遅れなどさまざまな課題を中小企業は抱えています。今後の業績改善への道筋について不透明な状況が続けば、当面は投資に慎重な見方が続き、政府の政策にも限界が生じる可能性もあると思われます。設備投資が今後の景気のけん引役になれるのか、景気の不透明感が増す中で注目されます。

 

  (初出:2015年12月11日付 南信州新聞「八十二経済指標」)
 

2015年12月11日 

 

 

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