地方中小企業からの「働き方改革」報告<2017・09・05>

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最終更新日: 2017年9月5日

「働き方改革」を考えるシンポジウムを開催しました 

  長野経済研究所では、8月28日に「『働き方改革』を考えるシンポジウム」を開催しました。「脱デフレの試金石となれるか?運輸業の挑戦」(7月4日)「『働き方改革』に本気になれるのか」(8月1日)などのコラムで紹介しましたアンケート結果をもとにしたシンポジウムです。長野県内では、初めての「県内企業の県内企業による議論」だったかと思います。
 各企業が苦労している点や試行・チャレンジしている施策、問題点などを話し合ってもらうことで、同じ環境下にある地域企業の対応状況や課題を共有してもらうことを目的としたものです。
 ご登壇いただいたのは、長野市の靴大型専門チェーンを展開するシューマートの霜田清会長、千曲市のメンズシャツメーカーフレックスジャパンの矢島隆生社長、塩尻市の金属プレス製品加工メーカーサイベックコーポレーションの平林巧造社長、そして、長野県産業労働部雇用・就業支援担当の内田雅啓部長の4名です。

トップの熱い思いと明確な方針から

 先ず各社トップの「働き方改革」に対する思いをお聞きしました。
 シューマート霜田会長からは、「一人一人が最大限の能力を発揮できる環境づくりのための改革としての思い。そのためにはこれまでのトップダウンのみでなく、働く従業員からの知恵や意識改革が必要」。
  フレックスジャパン矢島社長からは、「『このような会社では働きたくない』と言われるようには絶対にしたくない。そのためには、頑張ってもらっている女性が働きやすい職場づくりがスタート」。
  サイベックコーポレーションの平林社長からは、「『社員は家族』をモットーに、『大好きな仕事で家族が幸せになり、お客様や地域に貢献する』を夢に掲げ取り組んでいる。そのため、社員が大好きな仕事を見出せる会社の風土つくりに務めている」。
  長野県の内田部長からは、「長野県内企業の長時間労働削減に向けた支援や、県内企業の『稼ぐ力』を高めるため、その根源である人材の育成支援に力を入れている。」などの思いを語っていだだきました。
 改革には、トップの熱い思いと、明確な方針提示が必須ということを教えてもらいました。

欠かせない社内の意識改革。社員それぞれの主体的参画

 「トップの思い・方針があり、そして社内の意識改革の徹底です。このことは改革には不可欠な要件です。
 平林社長は「『伝える、聞く、やってみる』の繰り返しが重要。『伝える』は毎日の朝礼などを通じて。『聞く』は毎年の社員面談で。それを実際に『やってみる』ことで現実を改革する」。
  矢島社長は「QC活動を通じての『なぜなぜ活動』の実施。自らが課題や解決策を考え実施・解決することで、社員それぞれが自信を持つ。これが現場の改善につながる」。
  霜田会長は、「『未来プロジェクト』という改革のためのプロジェクトを立ち上げ、各社員が10年後の当社の姿や、自社の新たな業態を検討している。社内の活性化につながっている」と3社ともに意識改革のため、トップダウンだけではないそれぞれの社員の主体的な取り組みを促していることが分かりました。
 トップと企画や人事のスタッフだけで取り組んでも、社内の意識改革にはつながらないでしょう。

具体的な仕事の進め方の見直しは「現場改善」「制度改革」

  トップの方針、社内の意識改革という基礎ができ、具体的な仕事の進め方の見直しが可能となります。これなくして、時間外労働の削減は不可能です。もし強引に推し進めると、売り上げや顧客満足度が低下するだけでしょう。
  サイベックコーポレーション平林社長からは、「すべての行動の指針が『社員は家族』。であるなら家族の成長を援助することは親として当たり前。工場現場の無駄取りや省力化投資などで生産性を上げ、早く帰れる体制とした。その浮いた時間を機械操作など勉強の時間に回そうとする社員には『闘今(とうこん)タイム』として、月10時間までは給料を払う仕組みとしている。熱中して取り組むことで、好きな仕事が見つかり、生産性が上っていく」。
  フレックスジャパン矢島社長からは「商品が多品種少量化する中で、ベテラン人材が益々必要になっている。当社の場合ベテラン人材は女性が多い。結婚・出産と働くことが両立する職場作りに優先的に取り組んでいる。また、海外工場があることから、外国人を多く雇用している。国内工場でも、10数年前に採用した中国人社員が現在は小売部門の責任者として活躍している。性別、年齢、国籍等に関係なく活躍できるフラットな環境作りを進めている」。
  シューマート霜田会長からは、「売り場での在庫管理に情報端末を導入し業務効率化を進めている。有給休暇消化に向けては、有給休暇を優先した上で、売り上げ目標を策定している。3年をかけて時間外労働削減に取り組み、恒常化していた本部の残業時間を50%にした。長時間労働する人が偉いという価値観から、より短い時間で成果を挙げる人が偉いに変わりつつある。生産性の向上も評価できる体制を整えていきたい」。
  生産性を上げる取組みとして、「良く休み、良く働くこと」、「性別、年齢、国籍などに関係なく働けるダイバーシティ経営」、「改革の成果に対してはしっかりと評価できる体制」。そして、成果が出るには時間がかかるため、「地道に着実に継続していくこと」などが、ポイントとして挙げられました。

現状の課題と今後の方向性~中小企業の実情を踏まえて

  最後に、現状の課題や今後の方向性についてお聞きしました。
 各社からは、女性の産休や育休の間の社内の人材のやりくりや、女性社員の昇格のためのキャリアアップ方法、時間外労働削減のため取引先に理解を求めることの難しさなどが挙げられました。
 また、そもそも利益が上っていなくては、「働き方改革」どころではない。どのように利益体質に企業を変えていくのか、という地方中小企業ゆえの根本的な課題も提示されました。下請けゆえに低利益率の製造業、大手の価格競争に巻き込まれ、体力が消耗した小売業のほか、エージェント頼みのホテル・旅館や、労働に見合った対価を支払ってもらってないサービス業も多く存在します。
 このまま、「時間外労働削減」と「同一労働同一賃金」が推し進められていけば、対応できない中小企業には一層人材難に陥ってしまう。現状の早急な改革の動きに対する懸念も各社共通のものでした。
 こうした課題を乗り越えるためには、経営者の力もさることながら、社員一人一人の能力向上が欠かせません。
 最後に長野県での人材育成への取り組みが、内田部長から紹介されました。まさに人材こそが生産性向上を実現する重要な資源です。自社内のOJTもさることながら、不足する部分は外部を活用してでも、人材を育成していくことが重要です。
 地方でも「働き方改革」に向けた動きは本格化してきましたが、中小企業の実情を踏まえながら改革が実現するよう産官が連携した取り組みが求められています。

 

 

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