2013年の経済見通しと求められること<2013・01・23>

2013年経済見通しは「緩やかな持ち直し」

 政権も代わり大規模な景気対策や金融緩和への期待から、進んだ円高・株安の流れが修正された。実際に、日銀は1月の金融政策決定会合でデフレ脱却のため物価上昇率目標を2%に引き上げ、大胆な金融政策に舵を切った。10兆円規模の財政出動も予定されている。このような経済対策に加え、エコカー補助金の終了による自動車関連の反動減が一巡し増加に転ずること、海外景気の回復による輸出増加などから、今年は中ごろから緩やかな持ち直しに転じていくことが予測される。
 その海外経済をみると、昨年来、対日デモ等で減少してきた中国向け輸出も中国の景気刺激策を通じて持ち直し、増加基調に転じよう。米国経済も世界経済の回復を背景に緩やかながらも回復基調を続ける。また、世界的に普及が進むスマートフォン関連も生産の押し上げに寄与することが見込まれる。
 さらに、2014年4月の消費税率引上げ前の駆け込み需要も住宅、耐久消費財に徐々にではあるが現れてくるものと期待される。
 ただ、下押し要因も無視できない。米国の減税策終了に伴う経済失速いわゆる「財政の崖」への対応の失敗や欧州債務問題の深刻化、日中関係の悪化などである。

「緩やかに持ち直す」が、その実態は実感なき・・・

 しかしながら、景気回復といっても、その実感のなさはバブル崩壊以降続くものと同じである。すなわち製造業の受注は増えるものの、価格競争の激化から収益面の改善は限定的であり、結果として商業、サービス業など内需産業への波及も限定的なものとならざるをえない。
 本来、「実感を伴う力強い景気回復」とは、長野県の主要産業である製造業が収益を上げ、賃金を上げることで内需産業を潤していく構図だ。しかし、収益環境が厳しいことから当面所得が上がることは期待できない。内需を代表する商業では、デフレが解消されていない環境下で、むしろ節約志向による売り上げ減が懸念されている。そして、観光業では、所得に余裕ができてからしばらくしないと動きが見えてこない。今年は観光イベントが少ないことも加わり、苦戦が予想されている。同様に旅客も動きに乏しいという見通しが立つ。

経済予測もさることながら、一つ一つの気運の高まりこそ

 このように実感なき景気回復からの脱却なくして、真の長野県経済の回復はない。重要なことは、「どのように事業の付加価値を上げて、給与を上げていくのか」、ということである。
外なるグローバル化の進展と内なる人口減少高齢化の狭間で、長野県産業が時代のニーズをいかにとらまえ、景気回復の風を帆に受けられるのか。こうした構造転換が2013年でも引き続き求められている。
 例えば、製造業なら、新興国に分がある量産型から、多品種少量のわが社しかできないという部門や、大手が手掛けないニッチ部門への事業展開、および人口減少・高齢化の変化に対応した、研究開発を伴う健康・医療、環境・エネルギー、次世代交通分野など、その変化するニーズを捉えた成長期待分野への事業展開だ。
 「メイド・イン・信州」の人工衛星打ち上げプロジェクトも、県内20社が信州大学と連携し、2013年度の打ち上げに向け着々と準備を進めている。従来の大企業の末端を担うといった存在から、自ら高付加価値商品を開発し、それをプラットフォームに地域の中小企業が連携する新たなプロトタイプを作り上げようとする試みである。このような実績を積み重ねることで、「自立する製造業」としての自信を深めていっていただきたい。
 また、付加価値を上げるという観点からすれば、長野県でしか作りえない、ホンモノでハイセンスな製品を「高く売る」という戦略が必要だ。例えば、農業でも、県外から来た方から、長野県の農作物は新鮮で、美味しいと驚かれることが多い。そうしたハイセンスな製品やホンモノを提供する地域は、「行ってみたい」と思わせる観光地になる可能性も高い。人工衛星のような象徴的な完成品を以って加工組立型製造業のブランドを築くとともに、食のブランドもしっかりと築き上げ、観光との連携も図っていきたい。
 これらのことは本コラムでも、ここ数年来の新年見通しとして書き続けてきているし、最近でも「長野県ものづくり産業振興戦略プランのご案内」、「『信州ブランド』高く売る戦略、構築を」などで縷々具体的な動きを述べたが、繰り返し強調しておきたいことだ。
 さらに食についての課題も大きいゆえに、大きな事業機会が到来しているのだと考えられる。食はブランド化もさることながら、食料自給率の問題も大きく、本コラム「深刻化する食糧問題について」でも食糧を巡る問題を概観したが、製造業のノウハウを導入し、農業生産法人を戦略的に立ち上げるなど、多様な手法を以って長野県産業の第2の柱とすべき時期にきている。
 アベノミクスによる金融緩和は、疲弊しきった地方経済の産業構造の転換に向けての猶予期間を引き延ばすことであると考えると、2013年という年の位置づけも明確になってこよう。
新たな産業に向けての挑戦や、ブランドへの取組みの渦がどれだけ県内の各地で巻き起こっていくのか。経済の潮目の変化を予測していくことの重要性は言うまでもないが、こうした気運の一つ一つの高まりにこそ関心を持って注視し、今年も精一杯関わっていきたい。

(2013.01.23)

 

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