自動車部品から新市場への事業展開
塚田理研工業株式会社(駒ケ根市)は、プラスチックめっきの分野で国内トップクラスの技術を持つ企業だ。1960年代に量産化技術を確立し、現在は自動車部品向けを主力に事業を展開している。
近年は、航空・宇宙分野で注目されるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)へのめっきにも取り組むなど、事業領域の拡大を図っている。
また、その技術を生かした新たな事業展開にも取り組んできた。その代表例が2016年に発売した櫛「ラブクロム」だ。めっきによって櫛の表面に導電性を持たせることで静電気を抑え、髪への負担を軽減する。機能性とデザイン性が評価され、現在では駒ケ根市の「ふるさと納税」返礼品としても高い人気を集めている。
こうした事例を見ると、同社は単なる「めっき会社」ではなく、めっき技術を活用して新たな価値を生み出す企業と言った方が実態に近いように思う。
多様な顧客が育てた応用力
では、なぜ同社は新たな分野へ展開できるのだろうか。下島聡社長によれば、同社の売上の97%は駒ケ根市外の顧客向けである。長年にわたり全国の取引先から寄せられる様々な要望に応え、大手企業が敬遠するような手間のかかる仕事や、多品種少量の案件にも積極的に対応してきたという。
地域企業の競争力を語る際、独自技術に注目が集まりやすい。しかし実際には、顧客との関わりの中で蓄積される経験やノウハウも重要な経営資産である。同社の場合、多様な顧客ニーズに対応してきた経験が、新市場への展開を支える土台になっている。
人口減少によって市場が縮小する時代には、既存事業を深掘りするだけでなく、培った技術を別の市場へ応用していく発想が一層重要になる。
地域への感謝から始まった環境経営
さらに50年以上続くリサイクルへの取り組みも同社の特徴である。
現在でこそ環境対応は企業経営の重要課題となっているが、同社が取り組みを始めた当時はそうした時代ではなかった。原点にあったのは、駒ケ根の豊かな水資源への感謝と、「少しでも汚してはいけない」という思いだったという。
同社では、排水の浄化と金属回収を二本柱としてリサイクルを進めてきた。さらに今後は、回収したニッケルなどを再びめっき液の原料として利用する構想を描いている。回収した資源を社外に出して終わるのではなく、自社の生産活動の中で循環させようという試みである。
近年、サーキュラーエコノミー(循環経済)への関心が高まっているが、同社の取り組みは、その考え方を先取りするものだと言えるだろう。
持続的な成長を目指して
同社の売上高は現在およそ80億円で、将来的には100億円を目指している。ただし、下島社長が強調するのは単なる規模の拡大ではない。安定的かつ継続的に100億円を売り上げられるよう、財務、人材、組織、仕組みといった経営基盤を強化していきたいという。
地域企業の中には、優れた技術を持ちながらも事業承継や人材確保、組織作りなどの課題に直面する企業が少なくない。その意味で、技術開発と同時に経営基盤の整備を重視する同社の姿勢は示唆に富む。
同社の事例から見えてくるのは、技術そのものの優秀さだけではなく、その技術を新たな価値へ結び付ける力の重要性である。さらに地域環境への責任を果たしながら持続的な成長を目指すこと。
同社の歩みは、これからの地域企業のあり方を考える上で多くの示唆を与えてくれる。