大手メーカーを支える開発提案型企業
下伊那郡高森町に本社を置く株式会社イイダアックスは、家具の開発・設計・製造を手掛ける企業である。大手家具メーカーや住宅設備メーカー向けの製品を数多く製造しているが、その特徴は単なる製造請負企業にとどまらない点にある。
同社は創業時からオリジナル製品の開発に力を入れてきた歴史があり、現在も企画・設計段階から顧客企業と共同で商品開発を行っている。家具業界には製造機能だけを担う企業も少なくないが、同社は顧客の課題に対して開発提案を行いながら最終製品をつくり上げる「開発パートナー」としての役割を果たしている。
機械化とDXが実現する生産革新
こうした提案力を支えているのが、生産現場の徹底した機械化とデジタル化である。工場内ではQRコードによる生産システムが導入され、加工機械には製品ごとのデータが送られる。切断、化粧材貼り付け、穴あけ、ダボ打ちといった工程の多くが機械化されており、高い精度と安定した品質を実現している。
家具づくりというと職人の経験や勘が重要な産業というイメージがある。しかし同社は「人の技能に依存しない生産体制」を目指している。人材不足が深刻化する中、特定の熟練者に頼る経営には限界がある。そこで同社は誰でも一定水準の作業ができる仕組みを整え、生産性向上と品質向上を両立させているのである。
この仕組みづくりは働き方改革にもつながっている。現在、女性社員比率は約4割を占めている。家具製造業というと男性中心の職場を想像しがちであるが、同社では機械化を進めることで力仕事を軽減し、多様な人材が活躍できる環境を整備している。
さらに注目すべきは、30年以上前から導入している短時間勤務制度である。育児や介護と仕事の両立を支援する制度をいち早く整備し、長く働き続けられる職場づくりを進めてきた。こうした取り組みは、今日でいう女性活躍推進やダイバーシティ経営に通じるものであり、同社の先進性を示している。
地域の未来を担う人材を育てる
もう一つの大きな特徴が、地域人材育成への取り組みである。
同社では5年前から地元高校生と連携した家具開発プロジェクトを実施している。学生たちは「自分の部屋で使える家具」「保育を楽しむ家具」などのテーマでアイデアを出し、それを実際の家具として形にしていく。
例えば、「自分の部屋で使える家具」では、限られたスペースでも活用できる折り畳み式の学習机や、「保育を楽しむ家具」では、保育園児が自由な発想で遊べる遊具などが生み出された。これらは試作品に終わるのではなく、実際に保育園や地域施設で活用されている。
この活動の目的は単なる商品開発ではない。福田謙二社長は「自分で考える力を養い、つくる喜びを知ってもらうことが一番の目的」と語っている。つまり、家具づくりを通じた人材育成である。
興味深いことに、このプロジェクトへの参加をきっかけとして同社へ入社した若者もいる。ものづくりの魅力や企業の考え方に触れる機会が、人材確保にもつながっているのである。
地域に根差した持続的成長モデル
人口減少や人手不足が進む地方では、人材の奪い合いが激しくなっている。しかし同社は、単に採用活動を強化するのではなく、「人を育てる」ことで地域と企業の持続的な発展を目指している。
優れた技術力によって大手メーカーの信頼を獲得し、機械化によって生産性を高め、働きやすい職場づくりによって人材を定着させる。さらに地域の若者を育てることで次世代の担い手づくりにも貢献する。
イイダアックスは、まさに「家具づくり」を通じて「人づくり」と「地域づくり」を実践する企業である。開発力、技術力、人材育成力を兼ね備えた同社の取り組みは、人口減少時代における地方企業のあり方を示す好事例といえるであろう。
(資料)SBC「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2026年8月30日放送)