精密加工を支える高度な技術力
株式会社マスダ(上伊那郡宮田村)は、1962年に精密部品加工を主体とする製造業として創業した。現在は、精密部品加工と豆腐製造という全く異なる2つの事業を展開している。主力の精密部品加工においては、内視鏡関連部品加工で高い技術力を有し、微細かつ複雑な形状への対応力が評価されている。
NC複合旋盤を中心に多数の設備を備え、ステンレスや樹脂など多様な材料に対応できるほか、レーザー溶接やマーキングといった特殊工程も内製化している。さらに、加工設備そのものを自社で設計・製造することで、顧客ニーズに柔軟に対応している。
地域課題解決を契機とした豆腐事業の展開
一方、豆腐事業は1997年に開始された。背景には、減反政策により地元農家が大豆栽培へ転作したものの、販路が確保できず余剰が生じていたという地域農業の課題があった。さらに同時期には地域の豆腐店の廃業も重なった。
こうした状況を受け、同社は地元農家の支援と地域資源の活用を両立するため、自社で大豆を買い取り、「宮田とうふ工房」として豆腐の製造販売に乗り出した。地元産大豆「ナカセンナリ」を使用した豆腐づくりを軸に、現在では惣菜やスイーツなど約100品目まで商品展開を広げている。中でも豆腐ドーナツは人気商品として定着しており、地域住民を中心に高い支持を得ている。
精密加工技術を活かした第2事業の高度化
注目すべきは、豆腐事業への展開が単なる多角化にとどまらず、主力の精密部品加工の強みが生かされている点である。精密部品加工で培った設備設計力や工程管理のノウハウが、豆腐製造における効率化や品質の安定に寄与している。
こうした生産管理の高度化を背景に、豆腐事業では製造ロスの把握と再資源化も進められており、規格外品や売れ残りを活用したドーナツなどの商品開発にもつながっている。
さらに、これらの製品は自社運営の社員食堂でも提供されており、栄養バランスに配慮した食事提供を通じて健康経営の推進にも寄与している。
社員の健康と定着を重視した経営姿勢
同社が展開する社員食堂も特徴的な取り組みの一つである。自社の豆腐製品や関連商品を活用し、栄養バランスに配慮した食事を提供することで、社員の健康維持を支えている。社員食堂は単なる福利厚生にとどまらず、日常的なコミュニケーションの場としても機能しており、職場の一体感醸成にも寄与している。
こうした取り組みの背景には、「社員を大切にする」という経営姿勢がある。社員を単なる労働力としてではなく、企業の持続的な成長を支える重要な資産と捉える考え方が、福利厚生や職場環境の整備に具体的に表れている。
地域との共生と持続的成長
人手不足が深刻化する中で、同社のように地域資源を活かした事業展開と、社員の定着を重視する経営は、企業の持続的成長において重要性を増している。地元農業との連携、製造ロスの削減、社員の健康管理といった取り組みは、それぞれが独立したものではなく、相互に関連しながら企業価値を高めている。
同社の事例は、地域課題への対応と企業経営を両立しながら、新たな価値を創出するモデルとして示唆に富むものであり、今後の地方企業のあり方を考えるうえでも注目される。