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新たな息吹~地域の可能性を拓く人々(6)~グランジャ 三水亜矢さん<2026年6月26日>

「農」に根ざした原風景と自立への志

 三水さんの原風景はブラジルにある。農学部出身の父が1960年代に新天地を求めて渡航し、幼少期を豊かな大地で過ごした経験が、その後の人生の基盤となった。
 帰国後は山口県で育ち、父は会社勤めの傍らぶどう栽培に取り組む兼業農家となる。三水さん自身が農作業に深く関わることはなかったが「食が生まれる現場」の空気を体感して育ったことが、後の価値観の土台となった。
 大学では家政学を専攻し衣食住への関心を深めるが、就職した山口県の外郭団体での安定したデスクワークに次第に限界を感じる。東京での結婚生活を機に、「誰にも依存せず、自らの力で生きる術を持ちたい」という意識が強まり、自分の道を模索し始める。実家の果樹園を生かしたオーベルジュ開業の夢を抱き、食の世界へ踏み出したことが転機となった。

食の世界で育まれた「目利き」と経営観

 製菓材料メーカーに転職した三水さんは、商品企画と営業を担い、全国の菓子店を訪ね歩いた。実質的には経営者に随行する形で現場に入り込み、単なる営業スキルにとどまらず、優れた経営者に共通する判断力や人を見る眼を学んだ。この経験は、後の取引先選びの根幹となる「目利き力」を培う機会となった。
 1991年、夫の転勤で長野県松本市へ移住し、東京と長野を行き来する生活を開始する。現地ではレストラン勤務やフラワーアレンジメントを通じて感性を磨き、自らにしかできない「食にまつわる仕事」の輪郭を徐々に見いだしていく。

洋梨との出会いが導いた事業構想

 人生の決定的な転機は、洋梨との出会いである。父の依頼を受けて訪れた塩尻市の農園で、多様な品種とその奥深い風味に触れ、「なぜこの価値が料理人に届いていないのか」という疑問と使命感が芽生えた。ここから、産地と料理人を直接つなぐ構想が一気に現実味を帯びる。
 1997年、自ら営業を開始し、菓子専門誌をもとに首都圏の店舗へDMを送付したところ、一流パティシエから反応が寄せられた。「本物は本物を求める」という確信を得たことで、事業の方向性は定まる。その後、会計事務所で実務を学び、経営基盤を整えたうえで、2001年にグランジャを設立するに至った。
 同社の特徴は、生産者が「価格」を決定する仕組みにある。再生産可能な利益を確保できなければ農業に未来はないという認識のもと、生産者の価値を正当に伝える「架け橋」となる役割を明確に打ち出した。

産地と厨房を結ぶ「共創」の仕組み

 三水さんの事業は単なる流通ではない。生産者と料理人を相互に訪問させることで、食材の背景にある物語を共有し、新たな価値を創出する「共創」の場を生み出している。
 料理人は産地で自然環境と生産者の思いに触れることで創造性を刺激され、食材は単なる材料から「表現の主役」へと昇華される。一方で、生産者にとっても、自らの作物が一流の技術で昇華され、消費者に喜ばれる姿を目にする経験は大きな動機づけとなる。
 こうした相互作用が品質向上と新たな価値創造を促し、同社が扱う食材を唯一無二の存在へと育てている。

小川村で深化する「つなぐ」と「つくる」

 2005年、小川村へ拠点を移した三水さんは、仲介事業と並行して自らも農業に本格的に取り組む。西洋野菜の栽培を通じて「つくる側」の視点を体得し、生産者への理解と敬意をさらに深めた。この経験が、料理人に対する説明の説得力を高めている。
 組織運営においては、女性中心の小規模チームでそれぞれの得意分野を生かす柔軟な働き方を採用している。固定的な役割分担ではなく、多様な個が緩やかにつながる仕組みは、地方における持続的な働き方の一つのモデルといえる。
 現在は、未利用資源の活用にも取り組む。地域の植物から香りを抽出する事業や、渋柿を用いた柿酢の醸造など、これまで価値化されてこなかった素材に新たな意味を付与しようとしている。さらに、生産者・料理人・消費者が交わる拠点づくりも進行中である。
 三水さんの挑戦は、単なる流通を超え、食を通じた価値創造の仕組みそのものに及んでいる。その根底にあるのは、「農」と「人」をつなぎ直すことで持続可能な豊かさを実現したいという一貫した意志である。

  • (資料)「新たな息吹~地域の可能性を拓く人々『産地と厨房を結ぶ「架け橋」~有限会社グランジャ 三水亜矢さん』」「経済月報」(2026年6月号)

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