地域インフラ企業から雪国課題解決企業へ
武田設備株式会社(中野市)は、水道工事業を中心に地域インフラを支えてきた企業である。上下水道工事や設備工事といった、地域の暮らしを下支えする分野で長年にわたり実績を積み重ねてきた同社は、近年、雪国特有の課題解決に挑む独自技術の開発によって、全国から注目を集めている。
水道工事業界は、地域に根差した老舗企業が多く、競争も激しい。そうした環境の中で、同社は「今後どのように生き残り、地域に貢献し続けていくべきか」という問いと向き合ってきた。従来事業に安住するのではなく、将来を見据えた新たな事業の柱を模索する中で同社が着目したのが、雪国に暮らす人々が日常的に直面する「雪」という課題である。
黒鉛の特性に着目した融雪材料「雪けしくん」
中野市が位置する長野県北部では、積雪や路面凍結が生活や経済活動に大きな影響を及ぼす。歩道や敷地内での除雪作業は高齢化が進む地域において大きな負担となっており、また車両のスリップ事故など、安全面の課題も深刻だ。こうした現実を背景に、武田設備は融雪分野での技術開発に取り組み始めた。
その過程で同社が注目したのが、黒鉛の「熱伝導率」という素材特性である。黒鉛は身近な素材でありながら、熱を効率よく伝えるという特長を持つ。武田設備はこの性質を融雪に活用できないかと考え、研究開発を重ねた。その成果として誕生したのが、融雪材料「雪けしくん」である。
この材料は、黒鉛を練り込んだアスファルトやコンクリート舗装材を路面下などに施工し、地中や周辺に存在する自然熱を効率よく路面へ伝達することで雪や氷を融かす融雪材料である。
電気ヒーターなどの大きな外部熱源に頼らず、比較的少ないエネルギーで融雪効果を発揮できる点が大きな特長だ。また、構造がシンプルなため、維持管理の負担を抑えられる点も評価されている。
実証実験を通じた社会実装への挑戦
このように、身近な素材の持つ特性を見つめ直し、地域課題の解決につなげた発想力と技術力は高く評価され、「NAGANOものづくりエクセレンス2025」を受賞した。
中小企業でありながら、独自の視点で社会課題に挑んだ姿勢が、今回の評価につながった。
さらに同社は、実用化を見据えた検証にも積極的に取り組んでいる。現在、NEXCO東日本、長野県、信州大学工学部などと連携し、同材料を用いた高速道路への適用を目指した共同研究・実証実験を進めている。
現時点では、「雪けしくん」は主に私有地や敷地内などでの融雪利用が中心であり、公道での本格的な活用はこれからの段階にある。
しかし、もし今後、公道への適用が実現すれば、その展開規模や社会的波及効果は計り知れない。道路の安全性向上、除雪負担の軽減、エネルギー使用量の抑制など、雪国が抱える多くの課題に対して、大きな貢献が期待される。
水道工事業という本業を大切にしながら、将来を見据えた新たな分野に踏み出した武田設備。雪国の未来を支える技術として、「雪けしくん」のさらなる進化と広がりが期待される。
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(資料)SBC「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2026年4月19日放送)