深刻化する人手不足 ― 現場から見えてきた「辞めない職場」の共通点
近年、企業を訪問する中で必ずといってよいほど聞かれるのが、「人がいない」「若手がすぐ辞めてしまう」「社内に活気がない」といった声である。
人手不足・人材問題は、業種や規模を問わず、多くの企業に共通する経営課題となっている。
こうした状況に対し、多くの企業がまず取り組むのが採用対策である。求人活動の強化や処遇改善などは必要な対応である一方、現場を見ていると、それだけでは状況がなかなか改善しない例も少なくない。
実際には、「採用以前に、辞めてしまうこと」が大きな壁になっているケースも多く、人手不足の要因をもう少し丁寧に捉え直す必要性を感じてきた。
県内企業を訪ねる中で見えてきた視点―社員ファースト
こうした状況を受け、約3年前から県内の企業を訪ね、人材確保や職場づくりの実態を継続的に見てきた。その内容は、長野経済研究所の機関誌『経済月報』などで紹介するとともに、各地での講演の機会などを通じて共有してきた。
その過程で繰り返し実感したのは、人手不足を「どう人を集めるか」だけで捉えることの難しさである。
人を採用しても辞めてしまえば、職場に人は残らない。現場では、採用活動を続けながらも慢性的な人手不足から抜け出せない企業の姿が多く見られた。
3年間で訪問した企業は、業種も規模もさまざまである。しかし、人が定着し、組織として力を発揮している企業には、共通した考え方があった。
それは、社員を単なる労働力としてではなく、企業を支える最も大切な存在と捉え、働きやすさと働きがいの両立を重視した「社員を大切にする経営」を継続していることである。
働きやすい環境が整っていることで、安心して働くことができる。さらに、働きがいを感じられることで、前向きに力を発揮しようという意欲が生まれる。
こうした両面を意識した取り組みが、結果として社員の定着につながり、組織全体の安定や経営の持続性を高めている様子が多くの企業で見られた。
働きやすさと働きがいをどう整えるか
訪ねた15社の取り組みを整理すると、働きやすさと働きがいを構成するポイントが幾つか共通して見えてくる。本書では、それらを12のヒントとしてまとめている。
働きやすさの面では、「心身の健康が守られる職場環境」「社内で孤立せず、人とのつながりを感じられること」「社員の声が会社に届き、受け止められる仕組みがある」といった点が基礎となる。これらが整うことで、安心感をもって働くための土台が築かれる。
その土台の上で重要になるのが働きがいである。「適材適所で仕事に取り組めているという納得感」「努力や成果がきちんと評価されること」「自身の成長や貢献を実感できること」。
こうした要素が重なることで、仕事は単なる作業ではなく、意味のあるものとして受け止められるようになる。
日常の工夫からで大丈夫―職場は変わる
取材を通じて感じたのは、これらの取り組みの多くが、特別な制度や大きな投資を必要としないという点である。
日常的に話をする時間を少し増やす、評価の基準を分かりやすく伝える、感謝を言葉にする。そうした小さな工夫を積み重ねることが、結果として人が辞めにくい職場づくりにつながっている。
人手不足への対応というと、どうしても「外からどう人を集めるか」に目が向きがちである。しかし現場を見ていくと、「今いる人がなぜ働き続けられているのか」という視点こそが、採用や定着の両面で重要であることが分かる。
本書『ウチの会社に来ませんか ― 信州15社に学ぶ辞めない職場づくり』は、県内企業の現場から得られた知見を整理し、人手不足時代における職場づくりの視点をまとめたものである。
雇用や人材定着、働き方をめぐる議論や取り組みを進める際の、幅広い場面での実践的な参考資料として活用されることを期待したい。
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(資料)小澤吉則『ウチの会社に来ませんか ― 信州15社に学ぶ辞めない職場づくり』(信濃毎日新聞社)