SOIC とともに進める地域企業の成長支援
佐久市には、地域企業の成長を支える拠点として(一社)佐久産業支援センター(SOIC)が設置されている。SOIC は「Well-being city SAKU」の実現を掲げ、経営支援、人材育成、DX 導入などを通じて、地域企業が「人を大切にする企業」として成長することを後押ししている。ウェルビーイングを産業支援の中心に据える取り組みは全国的にも先進的であり、その現場を支える一人が、SOIC 会員企業である株式会社ツチの荻野邦子さんである。
荻野さんは 2020 年に東京都から佐久市へ移住し、ウェルビーイング経営支援や女性活躍推進、企業研修などを通じて地域企業の組織づくりに携わってきた。広告制作会社での企画・制作、生命保険会社での営業実績、育児・介護との両立など、多様な経験を積み重ねてきたことが、現在の活動の基盤となっている。
「新しい時代をつくる」思いと地域への移住
荻野さんが起業を決意した背景には、鹿児島県南九州市の知覧特攻平和会館で触れた若者の遺書がある。「新しい日本をつくるために行く」と記された言葉に深い衝撃を受け、「子どもたちの未来のために自分は何をするのか」という問いが胸に残った。広告制作では人を喜ばせ、保険営業では顧客の人生に寄り添ってきた経験を振り返る中で、「人の人生を支えることを通じて未来に貢献したい」という思いが明確になり、2019 年に夫と共に株式会社ツチを創業した。
活動拠点を考える中で、「日本の未来を考えるなら地域だ」と感じ、自然環境や食の豊かさ、教育・医療の充実などに魅力を感じて佐久市への移住を決断した。母親が北安曇郡白馬村でペンションを営んでいた時期があり、幼少期から長野県に親しみを持っていたことも、佐久への移住を後押しした。佐久市望月地区のコミュニティカフェ「ユーシカフェ」で地域の温かさに触れたことも大きな後押しとなった。移住後は畑での野菜づくりや地域コミュニティへの参加を通じて、都市部では得られなかった暮らしの豊かさを実感している。
ウェルビーイング×女性活躍×DX の実践
荻野さんは、人口減少が進む社会で企業が持続的に成長するためには、ウェルビーイングと女性活躍を両輪として進めることが不可欠だと考えている。まず心理的安全性の高い組織風土を築き、従業員が自律的に力を発揮できる環境づくりを支援している。企業理念やコアバリュー、管理職要件の再定義など、組織基盤の整備を伴走型で進め、そこに DX の視点を掛け合わせることで、持続可能な企業体質への転換を促している。
また、自身が育児・介護と仕事を両立してきた経験を踏まえ、女性がキャリアを築きやすい環境整備にも注力している。地域企業における女性活躍推進の支援を行い、多様な人材が力を発揮できる職場づくりを後押ししている。SOIC では「Well-being WG」のサブリーダーとして活動し、企業間連携を通じた地域全体の底上げにも貢献している。
越境連携と若者支援へ広がる視野
荻野さんは、講演会や先進地視察の企画を通じて、ウェルビーイング経営の理解を広げてきた。日立製作所フェローの矢野和男氏を招いた講演会や、女性活躍をテーマにしたセミナー、DX 推進に関する意見交換など、官民連携の基盤形成にも大きく貢献した。さらに、群馬県や福島県など他地域との越境交流を進め、企業同士が学び合う場を生み出してきた。
一方で、若者が自らの可能性を信じて挑戦できる環境づくりにも関心を寄せ、「FMさくだいら」での番組発信などを通じて、自律的な生き方や幸せのあり方を地域へ届け続けている。佐久市をモデルケースとしながら、地域で生まれた実践を外へ開き、外部の知見を地域に還元する循環をつくることを、次のステージとして据えている。
荻野さんの取り組みは、企業支援にとどまらず、教育・共創・越境連携へと広がりつつあり、地域づくりの新たなモデルとして今後の展開が期待される。
- (資料)「新たな息吹~地域の可能性を拓く人々『ウェルビーイングを軸に地域を元気に~株式会社ツチ 荻野 邦子さん』」「経済月報」(2026年2月号)