人を大切にする経営で元気をつくる(3)-株式会社ヤッホーブルーイング-<2022・12・21>
2022年7月29日付のコラムで採り上げたヤッホーブルーイングについて、「人を大切にする経営」という側面から掘り下げたい。
スタッフファーストという組織文化
同社を支える重要な組織文化が「スタッフファースト」、すなわち社員が一番大切であるという経営だ。井手直行社長はその理由について次のように話してくれた。
「ヤッホーブルーイングは、ファンや取引先、株主、スタッフなどにより支えられており、全て大切ですが、先ずスタッフを大切にすることを組織文化としています。スタッフが幸せを感じず、力を発揮できなければ、ファンに喜んでもらうことはできませんし、取引先、株主に対しても同様です。スタッフがファンをつくってくれているからこそ、コロナ禍でも売り上げは落ちません」と。
そのため、スタッフが幸せを感じ、力を発揮できる職場になるよう、まさに「あの手この手で」と呼ぶにふさわしい幾多の手立てを講じている。
メンバーの力を最大化する 「チームビルディング」
「人は得意なことを仕事にすると最も輝く」。井手社長の組織づくりの根底にある考えだ。
そして、各メンバーの得意なことを伸ばして、苦手を補い合うことが、組織として最もパフォーマンスが上がる方法となる。この考えに則った「チームビルディング」に同社は取り組んでいる。
同社では、「異動希望調査」で各人が希望する部署を把握し、そこへの異動を可能な限り実現する「適材適所」の人員配置を行っている。当然一度に全員の希望に叶う異動はできないが、何年かの内にその希望は必ず叶うようにしている。
また、「次の異動まで待てない」、「すぐにやってみたい」という希望にも蓋をしない。「プロジェクト制度」という仕組みをつくり、1年間の業務の中で20%は希望するプロジェクトに参加することを認めている。
仕事は実際にやってみないことには適性が分からないことが多いものだ。「プロジェクト制度」は配属されてみたら向いていなかったというミスマッチを未然に防ぐことにもつながっている。
人は得意なポジションに就いた時、自ら考え、行動しようという「自立性」を発揮する。適材適所の人員配置を通じ自立性を持った個人が最大限の力を発揮することにより、1+1が3にも5にもなる成果を生み出している。
チームで働くことを重視する同社では、「チームビルディングプログラム」の研修受講を推奨しており、現在までに約130名の社員が受講を終えている。
得意な仕事で力を最大限発揮できることは、とても幸せなことだ。そうした場を多くの社員に与えている同社は、まさにスタッフファーストであり、社員を一番大切にしている会社だと言えるだろう。
チームビルディングを支える フラットな組織・コミュニケーション
チームは気心の知れた仲間で組織されることが、スムーズに機能する秘訣である。
そのため同社は、社長の他は、部門ディレクター、ユニットディレクター、プレイヤーしか職位がなく、非常にフラットな組織となっている。
さらに、こうした役職でさえもコミュニケーションの阻害要因とならないよう、社長始め全社員が「ニックネーム」で呼び合うようにしている。近年、スムーズなコミュニケーションのために、全て「さん付け」で呼び合う会社も増えてきたが、ニックネームで呼び合う会社というのは多分同社だけだろう。
そして重要視するコミュニケーションについては、その量を増やす試みとして「毎日30分の雑談朝礼」を実施している。毎朝30分、管理職、パートスタッフなど全員が参加し、1人ずつ仕事と全く関係のない、強いて冗談混じりの話をしている。
気軽なコミュニケーションを重ねることで、仕事でも互いに忌憚のない意見を言い合える環境をつくり出すことができるのである。
仕事の話しかしない人間関係では、意見の衝突がそのまま喧嘩や決裂につながりかねない。
社内の雰囲気が悪い会社は、すぐにでも真似ができる方法ではないだろうか。
(資料)長野経済研究所「経済月報」『社員を大切にする経営で元気をつくる』(2022年12月)
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