増えるビジネスケアラー、1人で抱え込まないことが大切<2025・06・13>
 

増えるビジネスケアラー、経済損失は9兆円にも

 近年、ビジネスケアラーという言葉が時々聞かれるようになっている。これは、仕事をしながら家族等の介護を行っている人々のことであり、経済産業省(注1)によるとその数は2015年に232万人だったものが2025年には307万人に増加している。

 今後、2030年には318万人にまで増加すると見込まれており、これは労働力人口の約21人に1人に相当する大きな規模だ。ビジネスケアラーは、誰にとっても他人事ではなく、明日の我が身である。

 この背景には、かつて専業主婦が担っていた介護のあり方が変化していることがある。共働き世帯の増加に伴い、仕事と介護の両立を余儀なくされるケースが増えている。過去には、介護の主な担い手が専業主婦だったものが、現在は子供や配偶者となっている。

 ビジネスケアラーの負担は大きく、介護による労働時間の制約や仕事のパフォーマンス低下に直面する。また、両立が難しくなった場合には介護離職などにつながることもある。介護支援体制が不十分な企業は、従業員を失いかねない問題になっているのだ。

 これらによる経済損失は、2030年には9兆1,792億円(注2)に達すると推計されている。長野県の2021年度県内総生産(県内GDP)が約8兆6千億円であることを考えれば、その規模の大きさが想像できよう。

 個人の生活維持や企業の持続的成長のためにも、社会全体としてこの課題に向き合っていくことが求められている。

困って尋ねたのは「地域包括支援センター」

 こうした情勢の中、実は私自身も短期間ではあるが、ビジネスケアラーとしての経験がある。ごく短い期間だったため、あまり偉そうなことは言えないが、わずかな経験からお伝えしたい点をいくつかご紹介したい。

 私は現在、仕事の関係から長野市に住んでいるが、実家は南佐久郡佐久穂町だ。両親が健在だった頃は、実家に両親が2人で暮らしていた。7-8年前に父が米寿を迎えた頃に体調を崩し寝込むようになった。

 病院に入院できれば、それほどの心配はなかったが、「この年になってまで病院は嫌だ。死んでもいいから家にいる」といって頑として入院を拒む父に成す術もなく、在宅介護となった。

 幸いにも母が健康だったため、平日は母が父の介護を担ってくれていた。

 とはいえ、当時母も86歳と高齢で、いわゆるオールドケアラーであり、介護には限界があった。また、私自身も長野市の自宅から実家の佐久穂町まで、車で片道1時間少々かかる距離に住んでいたため、緊急時などにすぐ駆けつけるのは難しい状況だった。

 困ったなと思った時に、相談をしたのが、佐久穂町の「地域包括支援センター」である。

 そこを尋ねると担当者は、私の置かれた状況を丁寧に聞き取り、適切なアドバイスをしてくれた。要介護認定の仕組みや申請方法、地域の介護サービス事業所や支援いただけるサービスなどだ。これにより漠然とした不安が解消した。しばらくは何かあると、ここに相談に行っていた。

 アドバイスに従い、まず、町に介護認定の申請をして、医師の診察を受け、父は介護認定を受けた。それに伴い、ケアマネージャーさんが選任され、ケアプランを作成してくれた。そして、4名の看護師さんが交代に家に通ってくれることになった。

 まるで認定を待っていたかのように、父は真夜中に容態が悪化することが何度もあった。そのたびに母が電話をかけ、迅速に駆けつけていただいた。非常に手厚いサービスを受けることができ、本当にありがたく、今でも深く感謝している。

振り返って感じていること~抱え込まないこと~

 私の場合は、当時、元気に父の介護をしてくれる母がいたおかげで、幸運にも仕事に大きな支障を来すことなく過ごすことができた。それでも、家族だけでの介護には限界がある。

 そのため、今まさに働き盛りの皆さんには、もしご両親に何かあった場合、まずはご両親が住む地域の「地域包括支援センター」に相談することを強くおすすめしたい。

 そしてもう一つ大切なのが、介護認定を受けることだ。介護認定の有無によって、利用できる公的サービスの内容が大きく異なる。

 介護施設や病院に入所できれば安心だが、必ずしもそうなるとは限らないことは私のイレギュラーな例からも多少はイメージいただけるかと思う。

 地域のケアマネージャーさんや訪問看護師の皆さんに、身を粉にして支えていただいたお陰で危機的状況を何とか乗り越える事ができた。

 大切なことは、1人で抱え込まないことだ。

 そのためにも、こうした支援者(医療・介護関係者)の方々が安心して働ける環境づくりが、非常に重要だと感じている。

 

(注1) 経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」(令和6年3月)
(注2) 同上

(初出)SBCラジオ 飯塚敏文のあさまるFriday 2025・6・13放送

 

 

 

 

 

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