素朴な美しさと深い味わいを兼ね備えた「ラッシチェア」
(株)松本民芸家具は、1944年創業の老舗家具メーカです。創業以来、松本の伝統的な木工技術を基に、欧米の家具デザインも取り入れながら和と洋が調和した家具を製作してきました。現在ではレギュラー商品だけで800種類の家具を取り揃えており、全国に多くの愛好者がいます。
100年使用できる逸品
同社のイチ押しは、「ラッシチェア」です。同製品は、耐久性に優れた太(ふと)井草(いぐさ)(ラッシ)を手作業で編み込んだ座面が特徴の椅子です。
ラッシチェアは18世紀の英国に起源を持ちます。その美しい椅子を松本でも再現しようと、創業者池田三四郎氏の夫人であるキクヱ氏が中心になって設立初期から研究を重ねてきました。当初は、日本の家具作りの伝統技法になかったラッシ編みは困難を極めたものの、当時、松本民芸家具に技術指導を行っていた陶芸家・濱田庄司氏がヨーロッパから持ち帰ったラッシチェアを参考に技術を確立していきました。
ラッシチェアの座面は、湿らせて柔らかくした太井草を数本束ね、熟練の職人が力を込めて撚(よ)りながら座枠に編み込むため緩みがほとんどありません。また、長年使い込むことで座面が身体にフィットしていくとともに、味わい深い艶やかな飴色に変化していきます。非常に耐久性に優れ、100年以上使用ができる逸品です。
同社の「ラッシチェア」は、全部で40種類ほどの製品があり、1つ1つ職人の手で丁寧に仕上げられています
自社で太井草を栽培
同社のラッシチェアは、これまで静岡県浜松市で栽培された太井草を用いて製作されてきました。しかし、同社の家具作りにとって原点とも言えるラッシチェアをさらに地域に根差した製品とするために、8年前から太井草の栽培を大町市で開始しました。太井草は本来温暖な気候での栽培が適しているため、寒冷な当地で栽培ができるか懸念されましたが、肥料の量を少なくし草本来の生命力を引き出すなどの工夫を凝らすことで栽培を可能にしています。
洗練された伝統的な技術で製作
座面を支える座枠や背板、脚などには、ミズメザクラを主用材に、欅や楓など全て国産の落葉高木が使用されています。それぞれに表情を出すため、木目を計算して木材から必要な部材を切り出し、50種類以上の鉋を使い分け最適な形状を作り上げていきます。背板などのカーブは曲木と呼ばれ、丁寧な加工によって美しい自然な形状を生み出しています。最後の塗装では、何度も塗り、層を重ねることで色の深みを出しています。
やすらぎを与えられる家具
同社は、機械に頼らずできるだけ職人の手仕事で家具を製作しています。ラッシチェアのみならず、細部にまでこだわり抜いた家具は長年使い続けることができます。
「当社の家具は、使い込めば使い込むほど味わい深さが増していき愛着を持って使うことができます。今後も伝統を大切にしながら、人の心にやすらぎを与えられるような家具を製作していきたい」と池田素民社長は語ってくれました。
大町市にある井草畑。様々な工夫を凝らすことで安定した栽培を可能にしています
産業調査
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