遅れる観光需要の回復<2021.2.5>

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最終更新日: 2021年2月5日

  国連世界観光機関(UNWTO)が20211月に発表した推計によると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、20年の世界全体の海外旅行者数は、前年比74%減に当たるおよそ10億人が減少し、失われた国際観光収入は13千億ドル(約135兆円)に上るそうです。この国際観光収入の減少額は、金融危機で景気が後退した09年の11倍以上で、UNWTO20年を「観光史上最悪の年」と評しています。

インバウンド4000万人の目標達成は幻に

 日本政府は、これまで訪日外国人客(インバウンド)の増加に取り組み、20年の目標を4000万人としていました。しかし、20年の観光白書によると、訪日外国人客は、20年は1月こそ前年比1.1%減にとどまったものの、2月は58.3%減、3月は93%減、4月は99.9%減と急激に減少し、14月の累計は、同64.1%減の394万人にとどまったそうです。5月以降についても大幅な回復は見られず、4000万人の目標達成は幻に終わりました。

長野県の観光にも大きな影響

 この影響は、長野県観光にも当然及びます。県観光部が公表している18年の長野県観光客入込統計結果(観光庁「観光入込客統計に関する共通基準」に基づく)によると、訪日外国人客は108万人、その観光消費額は565億円に上ります。これは新型コロナ以前のデータですので、20年は、これがほぼ無くなったことになります。ちなみに、この観光消費額は、18年の県内の観光消費額の6.9%に過ぎません。つまり、日本人の観光やビジネスに関する観光消費額の方が圧倒的に大きいということになります。従って、日本人の観光需要を掘り起こせば、インバウンド消滅の影響はそれほどではないという見方もありますが、日本人の移動もままならない中、565億円の観光消費額の消滅は、観光関連業者にとって大きな痛手であることは間違いありません。

見通せない海外旅行者の急回復

 現時点で訪日外国人客を回復させる手立ては見当たりません。ワクチン接種によるコロナ収束が一縷の望みと言えますが、収束後も海外旅行者が急激に回復するかどうか見通せません。また、海外旅行者の激減により大きな影響を受けた航空業界が、コロナ以前の路線を維持するかどうかも分かりません。日本航空は21日に213月期の連結業績予想を下方修正し、純損失が3千億円に膨らむとの見通しを発表しました。ANAホールディングスも、5100億円の赤字予想を据え置き、旅客需要激減の影響は大きくなりそうです。

時間がかかる観光需要の回復

 観光需要の動向には、航空業界だけでなく、宿泊業や飲食業、バスやタクシー、鉄道といった運輸業など観光に関わる幅広い業種が左右され、影響は広範に及びます。例えば、宿泊業にはシーツやタオルなどをクリーニングするリネン関連やレストランなどでの食材や酒類を提供する業者などとの取引があるように、それぞれの業種の背後には、さらに多くの業種や生産者が関わっています。

 長野県は、ものづくりと観光が産業の大きな柱となっています。ものづくりは、中国がいち早く回復したことにより勢いを取り戻しつつありますが、観光需要の回復はだいぶ先になりそうです。幅広い業種や生産者が関わる観光需要の回復の遅れは、長野県経済の回復を遅らせる要因になるかもしれません。ちなみに、冒頭で紹介したUNWTOは、世界各国の海外旅行が19年の水準に戻るには2年半から4年かかるとみています。

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