通勤手当を廃止・減額する際の留意点 <2020.9.11>

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最終更新日: 2021年8月31日

 通勤手当の廃止・減額は、労働条件の不利益変更に該当する可能性があり、社員の納得が得られるよう変更の理由や合理性について、十分な説明をすることが重要です。合わせて代替措置を検討するなど、従業員のモチベーションに配慮することも大切です。

社員のデメリットを慎重に検討

 通勤手当とは、従業員の通勤にかかった費用を補助するために、企業が個人に支払う手当です。通勤手当は、その支給が法律上義務付けされている訳ではありません。

 一般的には、合理的な経路による通勤に要する費用の実費を支給します。公共交通機関利用の場合は定期代、マイカー通勤の場合にはガソリン代相当額等を、非課税限度額を上限に支払う旨を賃金規程等に定めている場合が多いようです。

 任意の実費支給的な手当ではありますが、就業規則や賃金規程に明記されている場合、労働基準法上の賃金にあたり支払い義務が生じます。賃金の一部である通勤手当の廃止・減額は、社員にとって収入の減少となり、労働条件の不利益変更に該当する可能性があり注意が必要です。

 本件のように、実際に通勤した都度に実費を精算する内容の変更であれば、廃止することへの理解は比較的得やすいかもしれません。しかし、ケースによっては手当以外の点で社員にデメリットが生じる場合があります。例えば、通勤費を含む総支給額が変動することで社会保険料の算定基準が変わり、年金等にも影響する可能性があります。社員のデメリットについて、慎重に検討することが必要になります。

変更の理由や合理性を社員に説明し協議する

  労働条件の不利益変更は、やり方を間違えると社員からの信頼を失うことになりかねません。

 対応にあたっては、一方的な変更とならないよう、労使で十分な話し合いを行う事が重要となります。企業は、変更の理由や合理性等について説明・協議を行い、社員や労働組合から合意を得ることに尽力するべきです。廃止・減額により社員に不満が発生するようでは、企業にメリットがありません。 

セットで代替措置を検討する

 通勤手当のみを単独で検討するのではなく、支援策をセットで導入することも有効です。

 例えば、通勤手当の代替措置として、在宅勤務に伴い発生する各種費用について、労使で公平な負担の在り方を検討することが考えられます。

 具体的には、在宅勤務手当等の名称で、会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費や、自宅で生じる光熱費などの費用の一定額を手当として支給する例などです。また、WEBカメラ・モニター・椅子など、社員が在宅勤務の環境を整えるための費用として、使途を定めずに1回限りの特別手当を支給するケースもあります。

 代替措置として新たな手当を導入することで、通勤手当廃止・減額への社員の納得性が高まり、合意を得やすくなるでしょう。

社員のモチベーションも配慮する

 通勤手当に限らず、現状支給されている諸手当が減額される場合は、収入の減少等で社員のモチベーション低下が懸念されます。 

廃止・減額については、労働条件の不利益変更への対応と、社員のモチベーションを考慮した代替措置の両面からの検討が大切です。

 本稿は、経済月報2020年9月号の相談コーナーで紹介した内容に加筆・修正したものです。

 (主席コンサルタント 岩下宏文)

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