不動産実務に影響を与える賃貸借契約に関わる民法改正<2019.9.6>

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最終更新日: 2019年9月6日

 民法において不動産業に関わる部分は、主に「賃貸借」になります。この賃貸借について、改正民法では、これまで判例によって運用されていた点を明文化したほか、新たな条文も設けました。以下に、改正の主な内容とその注意事項をみていきます。

賃貸借の存続期間上限は50年に

 改正前民法は、賃貸借の存続期間の上限は20年としていました。また、近時の太陽光パネル設置のための敷地といった建物の所有を目的としない敷地の長期の賃貸借の場合、30年以上と規定している借地借家法も適用されず、契約に不都合が生じていました。こうした長期の賃貸借契約のニーズに対応し、改正民法における上限期間は、20年から50年に延長されました。

 長期の賃貸借契約の場合、契約の途中で契約の当事者が亡くなったり、賃料相場が変動するなど、契約当初には想定しなかったことが生じる可能性があります。そのため、契約書に、例えば賃料の見直しを5年毎に行うといった条項を設け、当事者の合意により将来の事情の変更に備えておくことが重要になります。

 なお、契約で50年超の期間を定めた場合であっても、改正民法では、その期間は50年となると規定しています。

新設された敷金に関する規定

 不動産の賃貸借において、これまでも一般に敷金と呼ばれるものがありました。ただ、改正前の民法には敷金の規定がなく、その定義は不明確でした。改正民法では、敷金の定義を新設したほか、敷金返還債務の発生時期やその充当について明文化しました。

 まず、敷金の定義は「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」としています。このため、「保証金」「権利金」などの名目で交付していても、上記定義に該当すれば、敷金と解釈されることになります。

 この敷金は、賃借人の未払い賃料だけでなく、賃借人の原状回復義務や収去義務違反によって生じた債務についても担保することになります。

 また、賃貸人に敷金返還債務が発生する時期は、(1)賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は、(2)賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき、とされ、このとき、敷金から未払い賃料や原状回復に必要な金額、すなわち賃借人の債務の額を充当した残額を賃借人に返還しなければならないとされています。

原状回復義務の対象範囲を明文化

 原状回復義務とは、賃借人が建物に損傷を与えた場合、契約終了時に、その損傷を、原状すなわち賃貸契約前の状態に復する義務のことです。なお、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではないとされています。

 改正民法では、この損傷について明文化し、通常損耗と経年劣化は除くとしました。通常損耗とは、賃借人の通常の使用により生じる賃借物の損耗等で、経年劣化とは、年数を経ることによる賃借物の自然な劣化または損耗等、のことです。

 しかし、どういったものが通常損耗や経年劣化にあたるのかについては明確な定めがなく、従来通り、契約内容や判例を基に判断していく必要があります。そのため、契約書に、通常損耗・経年劣化の具体的な内容を記載しておくことが望ましいでしょう。その際、国土交通省住宅局が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が参考になるでしょう。

 本稿は、経済月報2019年8月号の相談コーナーで紹介したものです。

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