賃金への不満に、どう対応したらいいか <2019.7.5>
「社員が賃金に不満を持っているようだ」という経営者の悩みを良く聞きます。賃金の引き上げ努力には限界がある中で、賃金引き上げ以外に何ができるか考えてみました。
賃金に対する不満は水準だけではない
社員の賃金に対する不満は、次の3つに整理できます。
1.同業他社水準や標準生計費などと比較して、明らかに低い水準にある。
2.どのような仕組みで、賃金・賞与が決められているのかわからない。または、仕組みがない。
3.賃金に反映される評価が適正に行われておらず、社員の納得度が低い。
1.のように、明らかに支給水準が低い場合は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査や人事院の標準生計費などを参考に、一定の水準までの引き上げ努力が必要です。しかし、多くの企業では、他社より高い水準を目指して、給与水準を引き上げ続けることはできません。
2.のような場合、賃金制度を作成・公表して給与や賞与の「仕組み」を明確にしても、不満が解消しない場合があります。各自が知りたいのは、仕組みだけでなく自身の評価や評価根拠にあることが多いからです。
3.のように、「評価の納得度」に問題があるのは、適正に評価を行うスキルが評定者に無い場合や、目標設定・部下支援が適切に行われていないためだと考えられます。
2や3の状況がある中では、1.の「水準」だけを引き上げても、社員の賃金への不満は解消されないでしょう。
賃金以外のモチベーションを上げる
賃金の額は、低いより高い方が良いのは当然です。多額の昇給や賞与支給があった場合、社員のモチベーションは上がります。しかし、社員はやがてその水準が当たり前と感じるようになるでしょう。従って、賃金引き上げによる効果は、長くは続かない場合が多いのではないでしょうか。効果を持続させるために賃金の引き上げを継続するには多額の原資が必要であり、多くの企業では限界があります。
そのため、賃金以外で「会社の理念への共感」「目標達成の充実感」「自身の成長」「お客様や社会への貢献」といった、仕事によって得られる満足度などを通じて、社員のモチベーションを上げていく取り組みが重要となります。具体的には、社員を巻き込んだ「経営計画」の作成と実行を通じて、社員に働きがいをもってもらうなどの活動が考えられます。
現制度の運用を見直す
日本の人事賃金制度は、年功主義→能力主義→成果主義といった変遷があります。年功主義の賃金は年齢給・勤続給など、能力主義の賃金は職能給などで、どちらも右肩上がりの賃金となります。成果主義の賃金は職務給・成果給などで、上がることも下がることもある仕組みとなっているのが一般的です。また、2000年以降は、職務給・成果給・職能給・年齢給などをミックスした、ベストミックス主義が広がってきています。
右肩上がりの賃金の見直しを検討したいという企業も増えていますが、制度の変更を行わなくても、現制度の中で「昇格・昇進にメリハリをつける」「賞与で成果に応じた支給割合を高める」ことにより、職務給や成果給の色合いを強めることは可能です。「仕組み」の見直しに着手する前に、現制度が効果的に運用できているかの見直しも検討してみて下さい。
評価の納得度を高める
賃金や処遇に反映される「評価の納得度」を高めるためには、評価者教育により適正な評価ができるようトレーニングすることが有効です。評価者は、「期初の目標設定」「期中の部下支援」「期末の適正な評価」を通じて自身のスキルを磨くことに加え、評価結果のフィードバックにより社員の成長を促していくことが必要です。
評価者が部門のマネジメント力を強化して、社員から信頼される存在を目指すことは、評定者自身の成長や企業全体の人材育成もつながります。
以上のように、賃金以外の部分に目を向けることが、社員の不満を解消する切り口になるのではないでしょうか。
人事制度・賃金制度についてのご相談をお受けしています。お気軽に当研究所へご連絡下さい。
(主席コンサルタント 岩下宏文)
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