長野市大岡地区にみる買物弱者対策の好事例

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最終更新日: 2017年8月14日

  近年、過疎化と高齢化が進む地域において、食料品や日用品などの買物に不便を感じる高齢者が増加しています。こうした人達は「買物弱者」ともいわれ、内閣府の推計によると、その数は2014年において全国でおよそ700万人に上るといわれています。長野市大岡地区は、半世紀以上前から始まった人口減少や小売店舗の減少に危機感を抱き、買物環境の整備に取り組むことで買物弱者対策の好事例ともいえる地域となっています。

減少する身近な小売店舗

  長野市大岡地区は、市の南西部にあり、海抜450mから900mと高低差が大きく、急な傾斜地に点々と集落が形成されています。住民基本台帳によると15101日現在、大岡地区の人口は1034人、高齢化率は52.7%となっています。長野市内では小田切地区(同988人)に次いで人口が少なく、鬼無里地区に次いで高齢化率が高い地区です。国勢調査によると、人口は、1947年調査の4670人をピークに減少基調にあり、商業施設も168月現在、スーパーと酒屋の2店舗まで減少しています。

 同地区からの一般的な買物ルートである篠ノ井地区、信州新町地区へは、いずれも車で30分以上かかります。高齢者にとっては、車の運転に不安を覚える場合もあるでしょうし、運転自体出来ない状況も考えられます。しかし、同地域に住む高齢者には買物を不便と感じている人はほとんどいない状況です。

 重要な買物の「足」の確保

  大岡地区には、民間バス会社による路線がありません。このため、市営バスが「大岡篠ノ井線」として篠ノ井地区まで運行しています。さらに、デマンドバスである「ハッピー号」が、地区内及び信州新町地区まで運行しています。市営バスは、長野市に住所のある70歳以上の人を対象とした「おでかけパスポート」を利用すると、通常よりもかなり低料金で利用でき、高齢者の利用負担が大幅に軽減されています。また、ハッピー号は、元々福祉タクシーとして運行していたこともあり、バス停設置については、地元の要望に加え、個々の利用者の状況に応じた対応も行っています。こうした地域の「足」としての利用者視点に立った交通網整備が、買物弱者の支援につながっています。

民間事業者による買物弱者向けサービス

 このように、買物の「足」が確保されているほか、民間事業者による宅配サービスや移動販売が行われています。特に、移動販売は、かつて取り止めになった経緯がありましたが、再稼動を望む声が多数寄せられ、138月に10年ぶりに復活しました。合計48ヵ所の停車場所に集まる人は、ほぼ決まった顔触れであり、移動販売の担当者とも馴染みになっています。このため、移動販売は、住民の安否確認の役割も果たしています。

 大岡地区には、地区内の小売店舗はわずかであっても、他地区の小売店舗へアクセスできる公共交通の存在、また、店舗へ買物に行けなくても商品を届けてもらえる宅配システム、さらに、買物の楽しみを味わえる移動販売が揃い、買物弱者がほとんどいない状況を作り出してきたといえます。

不可欠な行政・民間事業者・地域住民の関与

 買物弱者支援に欠かせない要素は、行政、民間事業者、地域住民それぞれがこの問題に積極的に関わることです。三者のうちいずれか一つでも他人任せになってしまうと、こうした支援スキームは成立が困難になります。

 大岡地区の場合、行政は、公共交通網の整備・運行を担い、民間は、宅配や移動販売を手掛けることで食料品や生活用品を高齢者の手許に届ける役割を担っています。さらに、地域住民は、行政・民間の支援サービスを積極的に利用することで事業の継続に寄与しています。特に、公共交通網に関しては、利用者減に少しでも歯止めを掛け、路線を維持しようと、住民自治協議会が中心となって高齢者による買物ツアーを実施していることが注目されます。参加者からは、みんなでおしゃべりを楽しみ、買物もできるということで大変好評の声があり、地域の公共交通維持に寄与するだけでなく、家に閉じこもりがちな高齢者の外出機会を増やし、健康増進にもつながっています。

 このように、大岡地区が好事例となった背景には、地域の実情を良く知っている住民自治協議会が有効に機能し、地域の課題解決に向けて積極的に取り組んだことが挙げられます。同協議会は、課題認識に向けた実態調査を行い、最も効果的な対応策を検討し、実行に移してきました。地域の買物環境の整備には、行政、民間業者、地域住民の三者の連携と地域の課題解決に積極的に取り組む住民組織の存在がポイントといえます。

 長野市大岡地区の取組については、経済月報9月号で紹介しています。ぜひ、ご覧ください。

2016年9月12

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