野生鳥獣による農業被害対策へのICT利活用

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最終更新日: 2016年6月21日

 情報通信技術(Information Communication TechnologyICT)の急速な進展により、各産業分野での活用のほか、私たちの生活に身近なスマートフォンのアプリケーションの活用も進んでいます。一方、これまでICT利活用が進まなかった分野として農業、教育などがありますが、近年、地域の課題解決に活用され、成果が上がっている事例も出ています。

 農業分野でのICT利活用について紹介します。

農業における課題と解決に向けたICTの利活用

 わが国の農業の課題は、基幹的農業従事者の減少とその高齢化が挙げられます。平成7年から平成22年までの間に、基幹的農業従事者は256万人から205万人に減少し、平均年齢は59.6歳から66.1歳に上昇しています。このため就農者の減少に伴う耕作放棄地の増加も指摘されています。こうした状況に対して、わが国農業の活性化を図るために、(1)ICT活用による農作物の栽培条件の最適化や、(2)高い生産技術を持つ農家の技術・ノウハウをデータ化・見える化し、活用可能とする技術の確立による生産性向上、(3)生産から消費までの情報連携による消費者のニーズに対応した農作物の生産や付加価値の向上が期待されています。これら農業生産や農産物流通面とともに、ICTを利活用して農業被害対策を進める取組も実施されるようになってきました。

深刻な野生鳥獣による農業被害と塩尻市における鳥獣害対策へのICT利活用

 近年、中山間地域等において、鹿、猪、猿等の野生鳥獣による農林水産業への被害が深刻化・広域化しており、農作物の被害金額は年間約200億円に上ります。経済的被害のみならず、営農意欲の減退や耕作放棄地の増加をもたらす鳥獣害への対策にも、ICT利活用が進められています。

 塩尻市では以前より、総務省の資金等も活用し、市内の情報化基盤整備を進めており、全国的にも評価が高いが、世界的にも認められ、2015年にインテリジェントシティとして世界で21都市のひとつに選ばれています。さらに、2016年6月1日には、国の情報通信月間推進協議会長表彰を受賞しました

 特に、情報化基盤整備の一環として2014年地域情報化大賞特別賞を受賞した、鳥獣害対策用「鳥獣害センサー」が関連した取組であるため紹介します。鳥獣害センサーは、熊、猪、鹿等の鳥獣の出没や捕獲を検知するもので、山林と耕作地が接する中山間地域である塩尻市北小野上田地区において、出没する野生鳥獣による耕作地の水稲、ジャガイモなどの収穫物への被害が急増している課題に対して、ICTを利用して鳥獣被害対策を行う目的で鳥獣害センサーが設置されました。

 鳥獣害センサーは、動物が発する赤外線を感知して、警報音、光で威嚇し、追い払うと同時に出没時間と場所を農家や猟友会へメールで知らせる「獣検知センサー」と、特定された出没場所に設置し、罠にかかったことをメールで猟友会員に知らせる「罠捕獲センサー」の2種類のセンサーから構成されています。

 これらを使って実施した鳥獣害対策により、今まで被害状況を翌朝確認して耕作意欲を失い、がっかりするばかりだった農家の皆さんが、獣が出没した場所と時間が特定されることで鳥獣の出没状況を把握でき、地域が一丸となってまとまった行動ができるようになりました。今まで北小野上田地区では、85%の耕作地が被害にあっていましたが、今回の対策を行ったことで被害がゼロになり、鳥獣被害によりあきらめていた耕作意欲が戻り、従来の耕作ができるようになりました。

 この取組は、総務省のICT街づくり実証プロジェクトの一つである、平成24年度「センサーネットワークによる減災情報提供事業」の一環として行われたもので、今年度は全国に展開されています。

 鳥獣被害に悩む全国各地に塩尻市で成果を上げた鳥獣害センサーが展開されることを期待したいと思います。

(2016.6.21)

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