地域に根付く池工版デュアルシステムによる人材育成

 長野県内の新規大学等卒業者や高校新卒者の就職内定率は、平成22年3月以降、今年まで概ね回復傾向にあります。一方、厚生労働省職業安定業務統計(全国)では、平成22年3月に中学、高校、大学を卒業した者の、卒業3年後のそれぞれの離職率は62.1%、39.2%、31.0%となっており、明確なイメージを持たず働き始める若者と企業とのミスマッチが、高い離職率を生み出しているといえます。
 このように、最近、働くことの意味を見失い、職場に定着しない若者が少なくありませんが、高校段階から実際に就業(職場での労働)を体験することを通じて、勤労観、職業観を養うとともに、そこで実践的な職業知識・技術を身に付ける取組が注目を集めています。長野県内でも、専門高校を中心に、地域の企業・事業所の協力により、職場見学やインターンシップとも呼ばれる就業体験などが実施されるケースが増えつつありますが、ともに職場を経験する日数は長くても数日程度が一般的です。
 このような中、ほぼ年間にわたり、毎週1回生徒が地元企業・事業所に通って実習を受ける取組を10年近く継続している高校が池田工業高校です。

実践的な技術を学ぶ「池工版デュアルシステム」

 同校では、平成18年度から、学校の授業等では得られない実践的技術や職業・社会観、異年齢者とのコミュニケーション力を地元企業で身に着けさせる「池工版デュアルシステム」を実施しています。
 デュアルシステムは、ドイツを発祥とする学校教育と職業訓練を同時並行で進めるしくみですが、同校では、受講を希望する3年生が毎週金曜日の午後、製造業、建設業、農協、社会福祉協議会などの現場で1年間にわたり技術指導を受け、実習成果は課題研究という科目の単位として認められます。
 1年もの長期にわたって、現場実習を通したキャリア教育を実践する取組は国内でもそれほど例がないため、今も全国から視察が相次いでいます。
 9年目を迎える今年も、年度当初の4月25日に、実習先が決まった3学科17名の生徒が、事業所の代表者ら出席者の前で抱負を語る発足式が開かれました。これまでの8年間で実習を受け入れた企業・事業所は延べ55社に上ります。
 取組の継続には受入企業・事業所の理解と協力が不可欠であるが、「地域の人材は地域で育てる」との想いを共有し、技術者・技能者の育成に商工会や行政も含め、地域を上げて取り組んでいます。

やりがいを感じた生徒が地元企業に就職

 昨年度までの3年間に池工版デュアルシステムに参加した生徒は37名で、実習先に企業に就職した例もあります。また、実習先でなくても、例えば工務店で実習した生徒が県内の建設業に就職したケースも出てきています。
 デュアルシステムの立ち上げにも携わった同校の先生は、「現場の面白さ、つらさを実習を通じて知ることで、業界や企業への理解が進み、やりがいを感じた生徒が就職を決めている。就職後の離職を防ぐ意味でも、仕事の実態を肌で感じる現場実習は有効だ」と話しています。

地域人材を地域で育てるために必要な役割分担

 池工版に限らず、日本の専門高校等で実践されているデュアルシステムは学校・生徒と受入企業・事業所双方にさまざまなメリットを生み出すものですが、生徒を訓練する企業では、実習の原材料や消耗品の費用負担、指導を担当する社員の負担など課題も見えてきています。また、学校側にも、希望する生徒が増加した場合、受入企業開拓などの課題があります。
 次の時代の地域産業の担い手を地域内で育成するしくみとして、デュアルシステムが今後発展していくためには、例えば受入企業の費用負担を公費で支援するなど、さまざまな課題に地域を上げて対応する必要があります。地域に根付く産業人材育成システムとして、今後の展開に期待したいと思います。

(2014.6.17)

関連リンク

このページに関するお問い合わせ

公共ソリューショングループ

電話番号:026-224-0504

FAX番号:026-224-6233