仕事と家族の両立—大谷選手が示した新たな模範<2025・05・09>
 

驚きの大谷選手の育休宣言

 4月、大リーグ・ドジャースの大谷翔平投手の育休のニュースが世界を駆け巡った。

 私は、このニュースを聞いた時、思わず「えー本当?」と叫んでしまった。世界的な偉業達成を目指す大谷選手にとって、たとえ3 日間の離脱でもキャリアに不利になるのではないか、そんなセコイ考えが頭をよぎった。

 しかし、この考えはあまりに短絡的であった。育休明け直後こそ多少の低迷はあったが、その後再加速し、5月9日時点で既にホームラン10本、10個目の盗塁を記録している。

 「仕事が出来る人ほど休みを取るものだ」とは、昔仕事が出来る上司から言われた言葉だが、まさにその通りだ。

昭和の時代「お前が生むんじゃないだろう」

 これとは対照的に私自身子供を授かった平成の初頭を振り返ると、父親の育児参加は一般的ではなかった。

 さらに、私の10歳ほど上の昭和の先輩の時代は、奥さんの出産にあたって休暇申請をすれば、上司から「お前が生むんじゃないだろう」と言われてしまう。そんな時代だった。

 子育ては女性の役割、男はひたすら働くもの。そうした価値観に染まっていた時代、父親が積極的に出産、育児に関わるという文化がそもそもなかった。これを考えると時代は変わったものとしみじみと感じる。

 しかし、時代が変わっても何が本質かを考えるなら、そもそも男性も子育てをすべきなのだ。我々は幸せになるために生きている。働くこともそのために大切だが、家族との絆が最も重要視されるべきだろう。そして、子育てに対して父親が他人事であって、母親任せでいいはずがない。

男性の育児も緒についたが・・・

 日本でもようやく男性の育児休業制度が整備され始めた。

 とは言えその歩みはまだ始まったばかりで、長野県の調査によれば、2023年度の男性の育児休業取得率はまだ37%程度に過ぎない。制度は入れてみたものの、言い出しづらいとか、職場の理解が進まない、人繰りがつかない等々、様々な要因が取得の壁となっている。

 つまり実態は、育児休業制度は整えたが、実際には使う人がなかなか増えてこないという段階にある。

そして令和の時代「仕事と家族は両立するもの」

 そんな中飛び込んできたのが大谷選手の育児休業のニュースだ。

 「あのスーパースターでさえ取るのだから」とパパ達に一歩を踏み出す勇気を授けてくれるかもしれない。

 企業側にとっても、優秀な人材が育児に参加することは決してマイナスではなく、むしろ従業員のエンゲージメント向上や企業イメージの向上に繋がるという認識を広げる良い機会となるかもしれない。

 これを機に行政の後押しも重要だ。長野県でも男性従業員の育児休業取得率向上を目指し、「長野県パパ育休応援奨励金」など奨励金制度を用意しているが、一層の支援をお願いしたい。

 今回の大谷選手の決断が、「男性の育児休暇」を日本社会で当たり前のものとし得たのであれば、一字千金に匹敵する価値がある。

 ドジャースとの1,000億円を超える大型契約金の価値は、こんなところにもあるのかもしれない。

 

(初出)SBCラジオ 飯塚敏文のあさまるFriday 2025・5・9放送

 

 

 

 

 

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