ISOを使って社内管理体制を整備・強化
~小規模企業の有効な経営ツールとしてマネジメントシステム規格を活用しよう~
ある社長から、将来的な事業承継の準備のためにISO認証の取得を検討したいという相談がありました。経営するA社は小規模ながら業歴は長く、安定した営業基盤もありますが、業務の役割分担、目標管理、人材育成・教育、業務ノウハウの蓄積といった社内管理体制の整備が進んでいないという状況です。そこには、大切な事業を次の世代へ確実に引き継ぐために社内管理体制を整備し、経営のレベルアップをしたいという社長の強い思いがありました。本稿では、「社内管理体制の整備・強化」を経営課題とする小規模企業A社の事例を紹介しつつ、ISOマネジメントシステムというツール(経営の道具)を使った解決策をご紹介します。
はじめに
ISOとは、ジュネーブにNGOとして創立された国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略称で、発行する規格をISO規格といいます。このISO規格は大きく2つに分けられます。1つは、ネジや電池のサイズ、非常口のマークといった工業製品そのものを対象とする、いわゆる「モノ規格」です。そしてもう1つは、会社のさまざまな活動を管理するための仕組みを基準化した「マネジメントシステム規格」です。皆さんにもなじみのあるISO9001(品質マネジメントシステム)やISO14001(環境マネジメントシステム)はこれにあたります。
ISOマネジメントシステムとは
マネジメントシステムは、一般的に"会社の経営を管理する制度や方式"と定義されています。つまり、経営目標や会社の目的を達成するために組織を適切に指揮・管理する「経営の仕組み」のことをいい、その中で会社が最低限やらなければならないことを国際的な基準として規格化したものがISOマネジメントシステム規格です。良い製品やサービスを提供するためにはそれ自体の品質や形、大きさ等を決めることももちろん必要ですが、その前提として良い「経営の仕組み」ができている会社でなければ期待する製品やサービスを生み出すことができない。という考え方に基づくものです。
従って、ISOマネジメントシステム規格の認証を受けている会社は、「良い製品やサービスを生み出す経営の仕組みを備え、効果的に運用している会社」ということになります。今回A社が認証取得する狙いもまさにここにあるわけです。
PDCAサイクルで継続的に改善する
この仕組みの中で特に重要な考え方の1つとして「PDCAサイクルによる継続的改善」があります。経営課題・目標に対し具体的な実施計画を立て(PLAN)、その計画を実行し(DO)、結果を検証・評価し(CHECK)、それを踏まえてさらなる改善へとつなげ(ACT)、また次の計画を立てる。という一連の企業活動の循環をPDCAサイクルと言います。ISO規格には、会社の成長・改善のために欠かすことができない、いわば“経営のエンジン”が盛り込まれているのです。
経営に必要な基本的要素を網羅
ISOマネジメントシステムには、PDCAサイクルのほかにも次のような経営の要素がその
取り組むべき事項として規格化されています。
(1) 組織体系、責任・権限、役割分担の明確化
(2)経営課題・目標の明確化
(3)法令順守体制(コンプライアンス)の強化
(4)社員の能力把握と人材育成システムの構築
(5)経営に必要な規定や手順(決め事)の明確化
(6)内部監査・外部監査による経営チェック機能
このようにISOマネジメントシステムは、経営に欠かすことができない基本的な事項を網羅しており、ISO認証の取得にはそれらへの取り組みが必須です。A社の場合もISO認証取得を目指す中で、PDCAサイクルをはじめ、上記の経営管理の要素を備えた仕組みを作ることとなるわけです。
ISOは小規模企業の経営に効果を発揮
さて、A社がISOマネジメントシステムを構築していく中で実施した具体的な取り組みの一部をご紹介すると次の通りとなります。
(1)経営環境のSWOT分析による、自社の課題・リスクや機会(チャンス)の洗い出し
(2)その中で取り組むべき事項を全社の目標として実施計画を策定し、目標管理表に従い社員全員で活動を実施(PDCAサイクルの実践)
(3)組織図、業務分担・責任権限表の整備
(4)社員1人1人の業務スキル一覧表の整備と不足するスキルの教育訓練計画策定・実施
(5)業務に必要なマニュアル、手順書の整備とそれに従った活動の実施。等々
これらの取り組みにより、まずはA社の経営管理体制の基礎が整えられました。そして、そこで策定された目標や取り組み計画に基づき、社員全員参加の5S活動、資材や在庫の削減活動、データの整理・共有化による業務見直しなど、新たな活動が展開されるようになりました。
ISO導入は、目標と計画、業務ノウハウ、社員のスキル等を明確にします。さらに、そこにある課題に対し継続的な改善に取り組むことにより、業務効率化・平準化や人材育成・確保、ノウハウ継承につなげることも可能となるでしょう。社内の管理体制を整備・強化したい会社や、今までそれを後回しにしてきた小規模企業にとってISOは有効な経営管理ツールとなります。
マネジメントシステムは活用することが大切
マネジメントシステム構築が終わり、“器”が出来上がっても、その中にどのような“魂”を入れていくかは会社次第。大切なのは作り上げたマネジメントシステムを有効に活用し維持していくことです。A社に限らず、活動を成功させるポイントとして、私が日頃経営者の皆さんにお伝えしているのは以下の点です。
(1)経営者の積極的関与とリーダーシップの発揮
(2)課題や目標は、できること、会社にとって必要かつ効果が上がることから取り組む
(3)定着するまであきらめずにやり続ける
(4)社員全員を巻き込んだ活動とする
ISO認証というとどうしてもそれを取得することのみが目的となりがちですが、A社の例のように社内管理体制を整え、強化するツールとしてISOを活かすという考え方は大変重要であり、有効でもあります。皆さんの会社でも検討してみてはいかがでしょうか。
経営相談部 上席コンサルタント 澤井 深
(本情報は、経済月報2018年10月号の「コンサルティングの現場から」に掲載した記事を加筆修正したものです)
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