阿智村にみるDMO形成による地域観光振興の取り組み<2016.8.18>
今後の地域観光振興の核となることが期待される「DMO」
地方創生において、観光は交流人口を拡大させ、地域を活性化させる原動力として注目されます。こうした中で、地域の稼ぐ力を引き出す「観光地経営」の視点に立った舵取り役として「DMO」(Destination Management / Marketing Organization)が国内各地で組織され、今後、これを核とした観光振興が期待されています。DMOとは、地域内の幅広い関係者との合意形成、マーケティングに基づく観光戦略の策定・推進など、観光事業のマネジメントを担う官民一体となった組織であり、欧米の多くの観光地で先行して作られ、観光振興を主導しています。
観光庁は、地域観光のさらなる振興と地方創生に向け、「日本版DMO」の確立とこれを核とした観光振興を目指し、今年から「日本版DMOの候補となりうる法人の登録制度」を始めました。7月までに、全国で要件を満たした88団体(設立予定含む)が登録されています。
先駆的な取り組みがみられる阿智村
このうち、長野県関連では8団体が登録されていますが、その中でも、地域内の合意形成やマーケティングに基づく観光戦略など、DMOに求められる機能を以前から発揮し、先駆的に地域振興に取り組む地域の一つが、昼神温泉や花桃などで知られる下伊那郡阿智村です。
同村は2006年に民間主体の「(株)昼神温泉エリアサポート」を組織し、従来の観光施策を見直すとともに、着地型観光商品の開発や商品力向上による地域振興への取り組みを強化しました。さらに、16年5月には同社を母体とする「(株)阿智昼神観光局」を立ち上げ、観光振興の対象を昼神温泉中心から村全域に広げ、阿智村版DMOを目指すこととしました。
「日本一の星空」効果の村内全域への波及と地域連携を目指す
阿智村は06年に「星空が最も輝いて見える場所」(環境省)で全国第1位となったことに加え、消費者アンケートでも同村の魅力として「星空」を支持する意見が多かったため、11年から「星空」を観光資源としたブランディングやプロモーションを始めました。その効果もあり、毎年春から秋に実施する「天空の楽園 日本一の星空ナイトツアー」の参加者数は、12年度の約6,500人が15年度は約6万2,000人と、3年間で10倍近くにまで増加しています。
同社は、これまでも星空観賞を活用した宿泊プランなど滞在型旅行商品を開発し宿泊者数の増加を図ってきましたが、今後は最低2泊してもらえることを目指してPRを強化していくといいます。夜がメインの星空に加えて昼間に楽しめるプランも充実するほか、旅行客の長期滞在を促進するため、より広域なエリアで集客できるよう、周囲の上伊那・下伊那各地と宿泊プランを共有・連携する取り組みも検討しています。
また、これまで商工会と連携し、星空ツアーの参加者や村内宿泊者に、村内で利用可能な地域通貨「スターコイン」をプレゼントする取り組みを行ってきました。現在、村内70店舗で利用でき、村内の消費にも寄与しています。今後さらに利用促進できるよう、星に因んだ新商品の開発などに着手していくそうです。また、農業や林業などとの新たな連携も模索し、星空の効果を村内全域に広げていく方針です。
2027年に予定されるリニア中央新幹線の飯田駅開業も見据え、飯田下伊那地域内の連携は一層重要となります。今後は、同社が中心となり幅広い関係者を巻き込むことで星空観光の効果を村内全域に波及させるとともに、他の観光組織とも協力し、下伊那地域全体の広域連携を主導していくような動きが期待されます。
※こうしたDMOによる地域観光振興については、弊所機関紙「経済月報8月号」の調査「DMOの視点から今後の県内観光振興を考える」で詳しくレポートしています。ぜひ、ご覧ください。
(2016.8.18)
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