人を大切にする経営で元気をつくる(10)-高島産業<2024・04・18>

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最終更新日: 2024年4月18日

超精密微細加工を礎に多様な産業分野に参入

 高島産業(株)(茅野市)は、半導体ウェハ研磨、金属精密部品加工、医療機器・部品・FA機器等開発製造と幅広い分野を手掛けるメーカーだ。

 同社のルーツは時計の部品加工で、そこで培った超精密微細で高精度な加工を礎に、多くの産業分野への参入を果たしてきた。そして、下請け企業からパートナー企業へ、さらにメーカーへの柔軟な事業転換は、長野県製造業の先駆け的存在と言えよう。現在の売り上げの約6割は電気電子関係、約3割が医療関係、その他が FA機器関係となっている。

 特に30年程前に参入した医療機器分野は、高い精度が要求される精密微細な部品が多いことから、同社の強みが生かされてきた。手掛ける分野は多岐に渡っており、内視鏡や眼科、泌尿器科、内科などに関する医療機器の部品加工から機器本体の生産にまで至る。

学びを日常に組み込んだ「ものづくり活動」

 顧客のニーズに応え、それを上回るようなQCD(品質・価格・納期)をかなえていくためには、人材育成は欠かせない。時計から半導体、医療分野への事業転換を成し遂げられたポイントもそこにある。同社は、「ものづくりは人づくり」という考えの下、人材育成に力を注いできた。

  現在「ものづくり活動」という人材育成の中核をなすカリキュラムでは、「生産効率向上」、「在庫減少」、「品質向上」の3つのテーマを選定し、目標とする指標を目指して活動を重ねることで、コア人材を育成している。

 活動は、自動機製造や時計製造などといった業務別の16のグループに分かれ行われている。各グループともに、1時間15分のコマを月に4回実施できるよう勤務時間内にスケジュール化されている。実施した当日に係長が取り組み内容を確認し、適宜指導を行い、月末には発表会が開催される。発表内容から小口社長が進捗状況を確認した上で、講評を行う仕組みとなっている。

 学ぶことが日常業務に組み込まれていることで、「学び」が習慣化された企業風土を生み出している。

 習慣化された改善提案活動で収益を伸ばす

 何事によらず習慣化された活動ほど強いものはない。同社は「学び」のほか、「改善提案活動」も習慣化され、大きな成果を上げている。

 何かを習慣化するには、一定の期間その活動を地道に継続することが必要だが、同社の改善提案活動は40年にわたって継続されている。当初は提案を業務目標に盛り込み、提出を義務付けていたのだが、習慣化してしまった現在では、社員の主体性に委ねても十分な提案が提出されている。

 その数は、月に400件から500件という破格のもので、年間では5,000件を超える。この数字は、「改善提案制度」で名を馳せている岐阜県の未来工業(株)の提案件数と肩を並べるもので、その卓越さを推し量ることができる。

 年間5,000件を超える改善提案は、社員のやる気という土壌を醸成している他、実際の業績面でも大きな成果を生み出している。前述の生産性向上などを図る「ものづくり活動」の成果と併せてみるなら、収益を2~3割も押し上げる貢献を果たしている。

仕事を深める中国古典からの学び

 もう1つ、同社の強さを支えている学びが「人間学」だ。

 それは毎月実施されている「次課長会」のカリキュラムの1つで、ここでは小口社長をリーダーに主に中国古典を教科書として、次長、課長が人間学を学んでいる。「菜根譚」や「小学」、「呻吟語」などを読み、人間いかにあるべきか、人生どう生きるべきかなどを考え、学ぶ場となっている。

 心理的安全性を高めるため、社内コミュニケーション活動を活発化させる試みは、多くの企業で行われている。そうした中、同社のように中国古典を題材に仲間と話し合うことができたのなら、本音や価値観が分かり合え、言いたいことが安心して言い合える企業風土が自然と醸成されていくだろう。

技術が楽しいと思ってもらうことが社員を大切にすること

 同社は、社員の働きがいを高めることで、自らが考え、行動するボトムアップ型の組織となっている。これは同社が追及し続けてきた人材や組織の形でもある。

 小口社長は同社が人材に求める姿について、次のように教えてくれた。「技術は、安岡正篤の座右の銘である六中観の中の1つ壷中有天(こちゅうてんあり)だと思っています。つまり、技術を深めれば深めるほど、見えてくるものは広がり、面白さややりがいは増します」。  

 ところが、「働きやすさややりがい持ってもらおうと考える時、とかく間違えるのは、優しくとか、緩くとか、そのような雰囲気になってしまうことです。そうなってしまっては、会社は停滞してしまいます」。「そうではなくて、厳しさの中で技術を磨き、仕事に楽しさを見いだして欲しい。それが、仕事のやりがいにつながり、幸せにつながるのではないでしょうか」と。

社員への思いを形にした手厚い福利厚生制度

 こうした主体性を問う経営者の思いに社員が十分に応え得るのは、同社の根幹には社員への温かい思いがあるからである。同社の一番の強みは、この点なのかもしれない。

 この点については、社員の生活に深く浸透している福利厚生制度をみれば良く分かる。ほとんどの社員がコアタイムなしのフレックスタイム制度を利用し、非常に柔軟な働き方をしている。月間通算労働時間がクリアされていれば、1日当たりの勤務時間および出勤日数は問われないため、2時間残業した翌日には2時間早く帰るということができる。育児の際には、子どもが1歳になるまでの育児休業に加え、小学校1年生の4月まで短時間勤務が取れるようになっている。子育てと仕事が両立できるため、育休取得者の復職率は100%となっている。

 全ての福利厚生制度を紹介することはできないが、これらが真に社員に歓迎されている理由は、そのほとんどが社員の希望によって導入されてきたということだ。同社では経営層と組合による意見交換会が毎月行われ、そこで社員の要望がしっかりと経営者に届けられている。

社員が自慢をしたくなる会社

 人手不足が深刻化する中、社員にいかに定着をしてもらえるかは、企業にとって重要な問題だ。その際に「社員が自慢をしたくなるような会社」であれば、定着は促されるだろう。

 同社は、長野県の「職場いきいきアドバンスカンパニー認証制度」の上位認証にあたる「アドバンスプラス」の認証や、「健康経営優良法人」の認定も受けている。

 これらは小口社長が知らない間に、社員が申請をしたものだった。「私が勤める会社はこんなにいい会社です。だから世の中の人に多く知って欲しい」という社員の熱い思いが、行動に現われたのだと思われる。

 「わが社はこんなにいい会社です」。こう社員が言い合える会社が増えたのなら、人手不足は緩和されるだろう。そして、そればかりか企業も地域も元気になっていくのではないだろうか。

 今、日本や地域に必要なのは、このような会社が増えていくことなのだと思う。


(資料)『社員を大切にする経営で元気をつくる』長野経済研究所「経済月報2024年4月号」より抜粋

 

  

 

 

 

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