人を大切にする経営で元気をつくる(9)-サン工業<2024・2・15>

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最終更新日: 2024年2月15日

多彩なラインナップを提案し、非価格競争を実現

 サン工業(株)(伊那市、代表:川上健夫氏)は、めっき・表面処理加工を行う企業だ。取引先数は500社に上り、2023年9月期の売り上げは約34億円と2期連続で過去最高を記録するなど好調を持続している。

 この好業績の背景は、1つに同社が提案型企業であることが上げられる。

 出来上がった製品に対して、オーダー通りのめっきをしているだけでは単なる賃加工業である。そうではなくて、同社では、取引先が製品開発をする際の設計企画段階から、「どのようなめっきが適性か」、「製品の合金比率はどれぐらいがいいのか」など、できるだけ低コストで高品質な製品となるよう提案を行っている。そのため取引先企業にとって同社は、単なる下請けではなくパートナーであり、設計開発には欠かせない存在となっている。

 このような提案ができるのは、同社には業界平均の約2~3倍に当たる80種類のめっき加工技術と25種類のめっき処理技術、さらに試作から量産までの一貫処理対応が可能なノウハウ、設備能力があるからである。この高い技術力が2つ目の背景だ。

 業界では、亜鉛やニッケル、クロムなどへのめっき加工を専門とする企業が多いが、同社では、それらに加え金や銀、スズ、ステンレス、マグネシウムなども可能であり、さらに電気めっきのみならず、無電解めっき、化成処理などのめっき処理やバリ取りも請け負っている。

 このような取り引きであれば、利益を削ぐような価格を要求されることは少なくなる。同社では、提案とその実践で、価格競争からは一線を画した非価格競争が一定の製品において実現できているのだ。その結果、売上高経常利益率は20%を超えており10%に満たない業界平均をはるかに上回っている。

「山高ければ裾野広し」、8割の社員が技能者資格

 これを支えるのが同社の技術者集団であり、好業績の3つ目の背景となる。

 同社では、会社全体でめっき技術の底上げを図るため、全社員が国家資格であるめっき技能士を取ることを目標に掲げ日々研鑽を重ねている。同資格には「特級(管理監督者)」、「1級(上級技能者)」、「2級(中級技能者)」、「3級(初級技能者)」があり、入社3年目までには、3級取得を義務付けている。その結果、現在では、8割の社員がいずれかの資格を取得するまでに至っている。特に女性が同資格を保有している企業というのは稀だが、特級取得者が2名、1級が6名おり、女性の能力、モチベーションの高さが伺える。

 この資格取得は単なる表彰状授与の形式だけに終わらずに、「全国めっきコンクール」という実技競技の場において、全国1位を4度にわたって獲得しているという堂々の成果にもつながっている。

 「山高ければ裾野広し」という言葉どおり、社内の国家資格技能者の人数が多くなれば、会社全体の技術レベルも上がる。同社では、開発課で開発に携わる者が10名と同社規模での開発人員としては多い人数だが、それを可能としているのが先の技能者資格取得へのチャレンジだ。これを通じて、多くの社員が技術の基礎を習得できているため、開発職の候補が多く育ち、その中から選ばれた人材のレベルは高くなるのである。

サン工業の価値観 「一番大切なのは社員」

 社員のレベルを上げることが、製品やサービス、ひいてはその会社のレベルを上げていくということについては異論のないところだろう。

 同社には、理念や仕事に対する心構えなどをまとめ、朝礼や四半期ごとの面談で周知を図っている「Sunshine ~サン工業が大切にしたいこと」という小冊子がある。ここで「会社は社員1人1人の集合体であり、個人の成長なくしては企業の発展はありえません」と個人の成長の重要性を社員に向け訴えている。

 また、企業が向かおうとしている方向性と個人のそれが合致することで、社員は主体性をもって働き、幸福感を得ることができる。冊子では作成の目的として「あなたが求める幸せの方向性とサン工業が求める安心な会社づくりの方向性(ベクトル)が一致することがお互いの夢の実現にとても大切です」とも謳っている。

 冊子に一貫して流れている考えは、社員への温かい思いだ。「サン工業の価値観」という項目では、「サン工業にとって一番大切なのはここに働く社員であり、その家族です」と明記している。

 社員を大切にするからこそ、社員は会社のために全身全霊で働くのだ。同社の業績が好調な最も大きな背景は、ここにあるように思う。

1に教育、2に教育-「SUNDay」・「めっき道場」

 個人の成長なくして企業の発展がありえない以上、人材教育は企業が最も力を注ぐべき活動の1つだ。人材教育により成長機会を与えられた社員は、会社から大切にされていると感じ、より高みを目指し頑張るものである。

 同社は、人材教育にことのほか力を入れており、その仕組みがしっかりとつくられている。基盤となっているのが「SUNDay」と呼ばれる勉強会だ。これは「Step-Up-No-Day」の略であり、「ステップアップの日」という意味である。この勉強会は、2023年で23年目となり、開催回数も270回を超える。毎月第3土曜日を出勤日として定め開催され、既述のめっき技能士試験の学びもこの場で行われてきた。学ぶ内容はめっき技術関連だけにとどまらず多岐にわたる。特に、会社として不足している課題や、将来に向け強化しなくてはならないテーマについては、「SUNDay」の年間研修カリキュラムに落とし込み、確実に習得を重ねてきている。

社員みんなで、ハッピーケミストリーを目指して

 同社は基本理念を作成した理由として「良い仕事をすることはもちろん大切ですが、1人1人の創造性を高め、チームサン工業として仲間との絆を深め、成長していきたい」という思いがあることを小冊子「Sunshine」で述べている。

 このような考えから、川上社長は、社員全員が一堂に会する機会を非常に大切にしている。毎年、8月に行われる「伊那祭り」では、新人を中心に先輩社員も集い山車をつくり、参加している。社員旅行では全社員にアンケートを取り、その結果に基づき10コースを設け、行きたい所に行ける仕組みとしているため、今時にしては珍しく9割の参加率となっている。会社主催の夏祭りもあり、ほとんどの社員が家族連れで楽しんでいる。このような仕事以外での社員同士の関わりが多くなるにつれ、コミュニケーションが円滑となり、社員同士のチームワークも強化されていく。

 「早く行きたければ1人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」。というアフリカのことわざが思い起こされる。将来に向けての目標について、川上社長は次のように語ってくれた。「めっき業界でのトップを目指すだけなら、そこで終わってしまいます」、「広い視点で考えるなら、めっき処理というのは化学なのですから、将来的には化学で人を幸せにする会社になりたいと思っています」と。

 現状からは遠くに見えるかもしれないが、社員みんなで行くことで必ずたどり着くことができるのだと思う。今新たな制服と一緒に新調された帽子には、「Happy Chemistry」の文字が未来を見据えあしらわれている。


(資料)『社員を大切にする経営で元気をつくる』長野経済研究所「経済月報2024年2月号」より抜粋

 

  

 

 

 

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