サーキュラーエコノミーの実現に向け(株)hidekasuga1896<2023・11・24>

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最終更新日: 2023年11月24日

「ものづくり大賞NAGANO2023」でグランプリを受賞

 株式会社hide kasuga1896は、素材を中心に環境調和型製品の研究、開発、販売、ブランディングなどを行っている企業である。本社は東京都に置くが、研究所を信州大学国際科学イノベーションセンターに持つなど、長野県内での活動も多い。

 県内林業の活性化や資源循環のため開発した、循環型複合材「TRANSWOOD」の高い技術性や時代の要請である脱炭素に資することから、今年度の「ものづくり大賞NAGANO2023」でグランプリを受賞した。

 「長野県から資源循環のモデルを発信していきたい」。受賞を受けての春日秀之社長の思いだ。

サーキュラーエコノミーを推し進める新素材

 循環型複合材「TRANSWOOD」は、長野県産スギ間伐材の木粉と廃食用油由来の樹脂を50%ずつ配合させた100%自然由来の複合材だ。木粉を50%まで高濃度にできた素材としては世界初となる。

 トヨタ車体(株)が開発した「TABWD®」の技術をベースに、木粉の配合割合を50%にまで高めるなど、同社が信州大学などとの共同研究により適用開発したものだ。

 同素材は、50%の木粉を配合していることで、製造過程で排出されるCO2が従来品と比べ約30%削減できる。さらに、使用後粉砕しリサイクルすることも可能で、焼却せずにリサイクルした場合には従来品に比べ80%以上のCO2排出量の削減ができる。

 開発段階から、使用後もリサイクルすることを前提に設計してあり、対象素材も大量に存在する間伐材であることなどから、サーキュラーエコノミー(注1)を大きく推し進める新素材として期待が広がっている。

テーブルウェア「レトワコレクション」として製品化

 循環型複合材「TRANSWOOD」は、テーブルウェア「レトワコレクション」として製品化され、現在、ホテルオークラ東京など国内有数のホテルで使用されている。

 「レトワ」とはフランス語で3つを意味しており、3枚組のテーブルウェアとなっている。サーキュラーエコノミーは、直訳するなら「循環経済」だが、循環ばかりではなく、そこに投入する資源はより少なくということになる。そのため、サーキュラーエコノミーを謳うためには、よりミニマムな設計が必要だ。あえて3枚組としたのには、そうした理由からである。

 また、テーブルウェアの製造は、長年に渡り樹脂製品製造を手掛けている長野市の信濃化学工業(株)が担い、デザインは世界的な建築科である隈研吾氏が手掛けることで、高級感溢れる製品に仕上がっている。

 一般的にリサイクル材はコストがかかることから販売価格は高くなってしまい、価格競争力が劣る。そのため、高価でも売れる品質やコンセプト、ブランド力が必要となる。隈研吾氏がデザインし、信濃化学工業(株)が製造している意味は大きい。

 同製品を採用したホテルオークラ東京のレストランシェフは番組の中で「ラグジュアリーとSDGSの両立という観点から、この皿の持つデザイン性や高品質な部分で当レストランが目指す方向性と一致していることを考えて導入に至りました」と答えている。

 表参道のカフェでもスイーツ用プレートに使い始めるなど、ホテルやカフェで用途が広がっている。

長野市内中学校との共同プロジェクト

 サーキュラーエコノミーの重要性を訴える声は、日に日に高まっている。しかし、大勢の行動変革までには、いまだ至ってはいない。世の中に定着させていくためには、「三つ子の魂百まで」と言われるように、学生時代からの教育が重要となろう。

 同社では、長野市の東部中学校の学生とサーキュラーエコノミーの実現を目指すプロジェクトを開始している。

 プロジェクトは、「TRANSWOOD」で作ったペンケースを生徒に貸与し、使ってもらい、1年後に回収し、ベンチに再生するというものだ。

 学生自ら、廃棄予定であったものを加工し、価値をつけて新しい製品へと生まれ変わらせる「アップサイクル」を体験することで、行動変革は徐々に果たされていくように思う。「アップサイクル」は、感動を呼び起こすからだ。

 プロジェクトに参加している学生の声からはワクワク感が伝わってきた。「デザインに高級感があって使いやすいのでメチャいいです」、「再生して作っていてSDGsにも、地球の環境とかにもめちゃくちゃいいと思います」、「これでまた回収されてベンチになるので、逆にこうやってSDGsが広がってくれたらいいと思います」

 我々大人にとって、SDGsはどうしても借り物の域を出ないが、教育の中で学んできた今時の若者にとっては既に血肉化している。同様にサーキュラーエコノミーがこうしたプロジェクトを通じて「当たり前」の行動となる日もそう遠くはないだろう。

 

(注1)サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じ、付加価値の最大化を図る経済。(経済産業省「成長志向型の資源自律経済戦略」2023年3月)

 

(資料)SBC「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2023年11月19日放送)

 

 

 

 

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