長野県ものづくりを支えてきた長野県工業技術総合センター<2023・10・23>

印刷

最終更新日: 2023年10月23日

中小ものづくり企業の駆け込み寺的存在

 SBC信越放送で月一回放送をしている「明日を造れ・ものづくりナガノ」。2023年9月は、長野県工業技術総合センター小板橋竜雄所長にご出演いただいた。

 長野県工業技術総合センターは、長野県ものづくり企業の町医者、駆け込み寺として、県内に以下4つの支援拠点を設置し、年間5万件を超える相談等に対応している。

・材料技術部門(長野市)-工業材料の分析・評価、金属複合材料、3Dものづくり、製品の評価等。
・食品技術部門(長野市)-酒や味噌などの発酵食品の開発・改良、食品加工・分析等。
・環境・情報技術部門(松本市)-AI・IoT利活用、省エネ化支援、人間生活工学等。
・精密・電子・航空技術部門(岡谷市)-精密測定、精密加工、化学分析、めっきなど表面処理、電磁気評価等。

 同センターは、長野県のものづくりが飛躍する土台となった機関であり、長年に渡り長野県製造業を支えてきた。

センターの歴史と貢献

 長野県は戦中には多くの疎開企業を迎えたが、戦後は1952(昭和27)年に工場誘致条例を制定するなど有力企業を招致するための積極的な対応をはかった。

 そして、1955(昭和30)年、当時の林虎雄知事は予算1億円に上る公設試験場の構想を掲げた。県の予算規模がやっと100億円を超えた当時の1億円は、今の約1兆円の県の予算から考えれば100億円にも相当する金額だ。

 1957(昭和32)年、林知事の構想は「精密工業試験場」として、測定・工作・化学の3部門を揃え岡谷市で立ち上がり、1962(昭和37)年に電子部門が加わった。

 当時から、技術職員が研究や技術指導にあたり、企業向けの各種セミナー、産官学共同による技術開発を積極的に行った。また、自ら電子工業巡回試験車を走らせて、企業に出向き便宜をはかった。

 手探りで精密工業に取り組む業者にとって、自前で持つことができない高度な技術と設備を自由に活用することができるのは画期的であった。「精密工業試験場でテスト済み」というと、その部品や製品は信頼できるだけの精度を持つものと評価され取引先に納入することができた。

 同試験場の貢献により下請け企業の技術力は飛躍的に向上した。時計やカメラの大手メーカーへの販路は広がり、長野県は精密微細加工産業が集積していった。

 行政トップの英断がいかに地域の産業を左右するかがうかがえる。

 精密工業試験場は2005(平成17)年に、長野市の工業試験場、食品工業試験場や松本市の情報技術試験場と統合され、現在の「長野県工業技術総合センター」としての活動をスタートさせた。これにより多様な技術が融合され、今日、高度な技術開発や支援が可能となっている。

最先端技術に向けた体制強化

 最近では、次世代を見越した重要テーマであるDX(デジタルトランスフォーメーション)や5Gなど、産業のデジタル化対応に力を入れている。

 2019(令和元)年に、環境・情報技術部門に「DXラボ(AI活用/IoTデバイス事業化・開発センター)」、2022(令和4)年に、精密・電子・航空技術部門に「5Gラボ(次世代高速通信モジュール評価試験棟)」が設置されている。

 DXラボでは、企業のIoT導入を多方面から支援している。例えば、製造業の人手不足解消として、製品の良品判別をより正確に行うための画像検査ソフトの改善を図っている。また、AIに採りごろのリンゴを学習させ、リンゴを収穫できるロボットの開発など、農業分野での応用にも取り組んでいる。モーションキャプチャーといった装置もあり、健康増進に役立つヘルスケア関連製品の性能評価などを行っている。

 5Gラボでは、5Gに必要な部品や電子機器の開発を支援したり、それに係る部品などの性能を評価する装置を揃えている。5Gに則した電波を通しやすい材質かどうかの分析や、スマホに使われる極小レンズの性能を測定する装置。プリント基板表面のめっきに使われている金やスズなどの金属が検出できる「極表面複合分析装置」。金属の結晶の構造を原子レベルで解析することができる「多機能型X線回折装置」などである。

 ここでは紹介しきれないが、同センターの最先端技術への挑戦はDXに止まらず、3Dによるものづくりや機能性食品開発、航空技術、そしてGX(グリーントランスフォーメーション)への取り組み等々広範にわたる。長野県企業の町医者・駆け込み寺として期待される役割は、今後ますます大きくなっていくだろう。 


(資料)SBC「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2023年9月16日放送)

 

  

  

関連リンク

 

 

 

このページに関するお問い合わせ

産業調査

電話番号:026-224-0501

FAX番号:026-224-6233