「社員の幸せ」を礎にニッチ分野を極める東京精電(株)<2023・07・23>

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最終更新日: 2023年7月23日

量産での急成長と新興国の参入

 東京精電(株)(上田市)は、電力変換装置・システムについて、大手が手掛けない分野でトップの製品を持つ「ニッチトップ企業」である。創業は1919(大正8)年と古く、2019年には100年を迎えた「100年企業」でもある。 

 同社は多くの紆余曲折を経て、現在のニッチトップ企業の地位にたどり着いた。

 上田市には1945年終戦の年に、東京から疎開し工場を設置した。数年後には戦後の朝鮮特需の追い風を受け、変成器(トランス)の量産を開始している。

 その後もトランス製造を中心に順調に業績を伸ばし、80年代には10億円だった売上を27億円にまで伸ばしている。

  ところが90年代に入ると、東西の壁崩壊など世界情勢が大きく変わり、新興国の市場参入などもありシビアなコスト競争時代に突入した。多くの電機・電子に係る下請け企業がそうであったように、同社も新興国の低コストには太刀打ちできずに量産での売り上げを減らしていった。

多品種少量生産への転換

 2000年代に入っても暫くは辛抱の時代が続いたが、2010年代には業績も下げ止まった。

 その大きな要因が、オーダーメイド型の多品種少量型製品に軸足を移したことだ。顧客によって異なる要望、ニーズをとことん聞き取り、その要望に対しNOと言わない製品づくりへの挑戦だ。現在同社の強みの一つとなっている「顧客の製品開発に寄り添い、実現に向けて共に汗を流し、新たに顧客が『価値ある』と認めてくれる製品を創造すること」を実現していった。

 新たな顧客価値が創造できるのであれば、安易な価格競争に巻き込まれることはない。

 その際に重要となるのが、「顧客要求仕様の確認」である。つまり、顧客の要求を聞き出し、それを分析し、顧客の求める品質や納期、コストを完備した「要求仕様書」にまとめ、製品として実現できる能力だ。同社ではこの顧客とのコミュニケーション能力と、それを実現できる「モノづくり力」を強みとしている。

 強い「ものづくり力」の基盤となっているのが、一貫生産体制であり、設計から組立、調整、検査まで自社内で全て行えるため、品質、納期、コストの調整が自在にできるのである。

 さらに、大電流を測定するシャント、CT(変流器)、VT(計器用変圧器)といった競合他社が撤退した製品に対し、新たにセンサ課を立ち上げることで引き継ぎ、設計、製造、販売を強化し、重電8社との取り引きを継続している。

 大手がやらない細分化されたニッチ分野を手掛けるため、ニッチトップ企業として生き残りが図れたのである。

 こう見ていくと、オーダーメイド型の多品種少量型製品でニッチトップ企業になるということは、恐ろしく「ずく」のいる仕事を日夜重ねなくてはならないといことが分かる。

経営理念「社員の幸せ」がもたらす自発的な活動

 「ずく」のいる仕事を実行するのは、ほかならぬ社員である。社員が自発的に行動しないことには、このような面倒な仕事は回していけない。

 社員が自発的に行動するには、働きやすい職場でそれぞれの社員が仕事に対し「やりがい」を持っていなくては難しい。つまり、社員が幸せに働けていることが必要となる。

 そのため、同社の経営理念は「社員の幸せを求め、お客様と共に成長し繁栄していく」と掲げられている。お客様が大切だからこそ、社員はもっと大切なのである。

 このような環境下であれば、女性も活躍しやすい。同社の給与体系は男女変わらない。

 これらの条件もあり、女性社員比率は4割、女性管理職比率も5割と高い。「ずく」や根気が必要な仕事はむしろ女性の方が優れている。この高い女性比率が「ずく」が必要なオーダーメイド型の多品種少量型製品の製造を可能にしているという面は大きいだろう。

 コロナ禍においても女性の活躍は目覚しかった。対面営業が制限される中、電話やインターネットを使った営業の柱となって、売り上げの落ち込みを最小限にとどめた。

 インターネットの機能も強化した。従来以上に自社の製造実績のある製品を多く掲載することで、ネットからの引き合いを多く受けられる体制を整えた。

 同社はオーダーメイド製品が主流だが、ネットでは既に製造した実績のある製品をメインとしたため、専門の技術を持たない女性でも仕様確認、見積もりが可能となった。

 引き合いに対し対応可能な社員が増えたため、リスポンスの時間も短縮した。同社ではこのリスポンス時間を30分以内とすることを目標に取り組み、対応した。30分のリスポンスというのは、顧客に驚きを通り越して感動を与えた。製品やサービスで感動すると、人はファンになる。

 感動した顧客の多くは同社のファンとなり、継続的な取引先となっている。

長野県経営品質賞への挑戦

 長野県経営品質賞とは、日本経営品質賞の長野県版であり、顧客からの視点で経営全体を運営し、自己革新を通じて新しい価値を創出しつづけることのできる卓越した経営品質の仕組みを有する企業を表彰する目的で創設された表彰制度である。

 経営品質について、長野県経営品質協議会では「経営品質とは、顧客や市場の視点から見た経営の“質”のことです。製品やサービスの品質だけでなく『組織が長期にわたって顧客の求める価値を創出して、市場での競争力を維持するための仕組みの良さ』のこと。いくらモノがよくても、組織全体が顧客に信頼されないとダメ。顧客満足を高め、信頼を勝ち得てこそ、生き続けることができる、という考え方が根底にあります」と説明をしている。

 そして、経営品質に取り組むことは経営品質向上活動を行うことであるとして、「1. 経営の質を向上させることを目的に、日本経営品質賞アセスメント基準書を活用して、自らの組織の『経営全体の仕組み』をアセスメント(評価)し、2.『強み』と『弱み』を明らかにして、3.『強み』を伸ばし、『弱み』を改善する活動を継続的に進め、長期的に競争力を維持・発展させる強い経営体質を築く活動です。」と説明をしている。

 これを受け同社では、自社の強みを「変圧器では国内で一番歴史がある会社」、「パワーエレクトロニクスの専門メーカーとして、高電圧・大電流・高周波の技術力を持ち、技術の駆け込み寺として、顧客や競合からも頼りにされている」、そして既述の多品種少量生産への移行を支えてきた「顧客の製品開発に寄り添い、実現に向けて共働することで新たな価値を創造できる」と見出した。

 同社では、これらの強みを明らかにし、社員の幸せ追及の活動に併せ顧客価値を上げた実績や体制などが評価され、2019年と22年に長野県経営品質賞アルプス賞を受賞した。

 今後、15年後の「ありたい姿」として更なるカスタム対応に磨きをかけ、より多くの顧客価値を創造できる企業となれるよう「社員全員技術者」を目指している。
 同社の3度目の経営品質賞への挑戦は始まっている。


(資料)SBC「明日を造れ!ものづくりナガノ」(2023年7月23日放送)

 

 

 

 

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