ロケの誘致・支援を通じて地域振興を<2023.6.26>

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最終更新日: 2023年6月26日

諏訪地域がメインロケ地の映画「怪物」

 6月2日から、諏訪地域がメインロケ地となった是枝裕和監督の映画「怪物」が公開され話題になっています。先月フランスで開催された第76回カンヌ国際映画祭では見事に脚本賞とクィア・パルム賞を受賞するなど、世界からも注目を集めました。
 今回の「怪物」のように映画やドラマなどの撮影が地方で行われる際に、ロケの実施を支援する組織を「フィルムコミッション」といいます。また、作品の公開後にロケ地などを観光客に巡ってもらう「ロケツーリズム」も全国各地で人気を集めています。そこで今回は、こうしたフィルムコミッションやロケツーリズムによる地域振興についてお話しします。

ロケを誘致・支援するフィルムコミッション

 まず、フィルムコミッションについて簡単に説明すると、映画・ドラマ・CMなどあらゆるジャンルの撮影を誘致し、実際のロケを円滑に進めるための支援を行う非営利公的機関です。元々は1940年代にアメリカで始まったとされ、日本では2000年頃から各地で設立が進みました。県内では2001年に上田市で設立されたのが最初で、現在は各地の観光協会や自治体などを母体として7つのフィルムコミッションが県内各地で活動を行っています。
 「怪物」の是枝監督はインタビューの中で、諏訪地域をメインロケ地に選んだ理由として、作品の重要な舞台である学校をロケに使えたことや、本物の消防車が実際に街中を走るシーンの撮影許可が得られたことなどを挙げています。まさにこうした大掛かりな撮影場所の提供や自治体との協力などを可能にするための窓口を一元的に担っているのがフィルムコミッションです。
 こうした撮影に協力することで、作品の中に地域の風景や街並みなどが映り込み、地域にとっては絶好のPRの機会になります。また、撮影中は演者やスタッフが地域内に滞在するため、宿泊代や食事代、さらにロケ地の使用料や設営費、機材のレンタル代なども地域に還元されます。今回の「怪物」のロケを支援した諏訪圏フィルムコミッションによると、2007年度から21年度までのロケ誘致・支援による直接的な経済効果が7億3千万円にも上ったそうです。

ロケツーリズムで地域への効果をさらに大きく

 ロケ支援の地域への効果をさらに大きくすると期待されるのが、作品を見た多くの人がロケ地やゆかりの場所などを訪れるロケツーリズムで、こちらも主に各地のフィルムコミッションが携わっています。作品によっては撮影後何年にもわたり、国内だけでなく海外からも熱心なファンが数多く訪れる「聖地」のような場所もあり、そうした来訪者を受け入れ、地域内のロケ地を巡り食事や買い物などを楽しみながら回遊してもらう取り組みが重要となっています。
 一般的には、作品のロケ地や撮影が行われたお店、立ち寄りスポットなどをまとめた「ロケ地マップ」の作成や、作品に関連するグッズの展示、イベントの開催などが行われています。ただ、こうした取り組みはどうしても作品公開から一定期間に限られてしまうのが現状です。
 そこで、長期間にわたって観光客をロケ地に誘い、作品の世界観を追体験したり、撮影の痕跡を楽しんでもらったりすることが大切です。例えば、作品の製作者などと連携し、作品のセットの一部をロケ地に保存する、あるいは作品の記念碑のようなものを設置できれは非常に効果的だと考えられます。ちなみに、私の地元・安曇野市では、かつて黒澤明監督の「夢」という映画に使用された水車小屋のセットがその後も保存され、今では地域を代表する風景の一部として多くの人に認知されるなど、ロケを契機に新たな観光名所が生まれました。

継続的な地域振興に

 今回ご紹介したロケ支援の活動やロケツーリズムは、何より作品製作者と地域やフィルムコミッションとの信頼関係が非常に重要です。ロケへの協力体制が評価されれば、その後同じ監督や製作陣が別の作品でも繰り返し撮影で訪れ、継続的な地域振興につながるといえます。
 これからも数多くの作品で、信州の自然や街の風景を楽しめたら嬉しいですね。

 

2023年6月26日放送 SBCラジオ「Jのコラム」より

 

 

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