人を大切にする経営で元気をつくる(5)-社会福祉法人からし種の会-<2023・06・14>

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最終更新日: 2023年6月14日

 平均年齢33.8歳、新卒採用で人手確保

 社会福祉法人からし種の会(佐久市、代表:的場正芳氏)は、障がい者支援施設「緑の牧場学園」のほか、4つのグループホームを運営し、障害福祉サービス事業を営んでいる。

 福祉サービス業界は人手不足が大きな経営問題となっているが、同法人では新卒の採用を積極的に行うことで必要な人手を確保し、サービスのレベルを維持している。 

 これらが評価され、2022年10月には若者の採用や育成に積極的で、雇用環境にも優れた企業を対象とした厚生労働省の「ユースエール認定企業」に認定された。

 この認定だけではなく、人材の確保・育成に主体的に取り組む福祉事業所であることを長野県が認証・評価した制度「信州ふくにん」や、長野県版のホワイト企業認定制度とも呼べる「職場いきいきアドバンスカンパニー」の上位認証にあたる「アドバンスプラス」にも認証されている。さらに経済産業省の「健康経営優良法人2023」の認定も受け、職員の健康の維持・増進にも力を入れている。

 また、同法人は理念として「利用者の権利擁護」、「利用者主体のサービス」、「地域に開かれた施設」の3つを掲げているが、これらはSDGs(持続可能な開発目標)の目標と合致することから、「長野県SDGs推進企業」にも登録されている。

 こうした取り組みの結果、現在の職員の平均年齢は33.8歳と若く、職員1人当たりの利用者数は1.7人という人員配置が可能になっている。

 雇用環境の整備を評価する多くの認証を取得しているから、すなわち「社員を大切にする会社」と言い切ることはできないが、少なくとも、そこに向けて多くの努力を費やしている法人であることは間違いない。

 こうした努力に対して、学生や地域の注目がますます集まっている。

 人が集まらないと嘆いているだけではなく、同法人のような努力、取り組みをすることこそが人手不足の解決につながるのではないか。

わが社の強みは「利用者の笑顔」

 同法人の強みは「利用者の笑顔」であり、「それを実現するために職員を多く採用し、余裕のある人員体制を敷いています」と廣田典昭施設長と高橋邦彰次長は取り組みの核心を語ってくれた。

 既述のとおり職員1人当たり1.7人の利用者という人員配置を敷いているため、多くの利用者に手厚い生活支援ができているのだ。各種の認証を取得している目的も、より多くの職員を採用し、利用者を笑顔にするためなのである。

 さらに、同法人は業務のDX化で利用者の異変に対する効率的な対応や、新人に対するチューター、メンターの2人体制の育成方法など、働く人に余裕を持たせる施策を積極的に講じている。

 障がいを抱えた利用者は、身体が不自由なため、生活を送る中で不安な気持ちに陥りがちだ。しかし、家族のように頼りになる職員がいれば、心の拠り所を得ることができる。

 同法人では、職員と利用者が1対1に近い関係で接することを可能にしたことで、利用者にとって職員は、「自分を助けてくれる人」、「自分を特別に看てくれる人」となっている。こうして職員に対する信頼関係が築かれることにより、利用者の不安が解消され、笑顔が生まれている。

 同時に、職員に仕事のやりがいを尋ねても、「利用者の笑顔」という答えが多く返ってくる。

 福祉サービス事業の目的は、利用者の生活を支援することで、笑顔になってもらい、究極的には幸せなってもらうことだと言える。そのために必要なことは、職員が幸福感を持って働けることだろう。職員が苦悩し、不平不満ばかりだったなら、利用者に満足してもらうことなどできるはずがない。利用者の生活全般を支援する、時に重労働も求められる福祉サービスであればこそ、職員が職場や仕事に満足していなければ利用者の笑顔など望むべくもない。それゆえに、「働きやすく、働きがいのある職場づくり」が求められる。

 同法人では、こうした職場づくりに向けての不断の努力を続けているからこそ、「利用者の笑顔が強み」と言い切ることができるのだと思う。

主体的な取り組みと成長の実感が働きがいに

 同所の職員の一番の働きがいは、「利用者の笑顔」にあることは先に述べた通りだが、利用者を笑顔にするために、どのように支援していくのか。

 その元となるのが「個別支援計画」という計画書だ。一般的にはサービス管理責任者が全て作成するが、同法人では、その原案を担当職員が作成し、サービス管理責任者に提出し、修正案のアドバイスを受け、グループ全体で議論をした上で決定をしていく。

 原案を担当者が自ら作成しているため、やらされ感はなく、主体的に関われるため、現場での支援業務にも力が入る。それが「利用者の笑顔」につながることで、自らの知恵と行動で結果を出せたという達成感を生み、さらなるやりがいにつながっている。

 人は自らの成長を感じた時に仕事のやりがいを感じるものだ。そして、その成長を促してくれる会社には愛着を持つものでもある。

 同法人は職員の成長を支える研修や資格取得に力を入れている。同法人の階層は、1~3年目がビギナー、4~8年目がミドル、9年目以降がハイヤー、そして管理職という区分になっており、キャリアパス要件が定められている。その要件をクリアするため、求められるスキルや姿勢を学ぶ場として全員参加での階層別研修を年4回実施している。また、組織の中核を担うミドル層は、2年間を掛けて、2時間の研修を10回実施している。

 社会福祉士、介護福祉士、精神保健福祉士など資格取得についても推奨しており、取得のための受験料全額、通信講座の半額補助を行っている。資格手当としては、1資格につき7,000円が支給される仕組みとなっている。 

 これらの人材育成への取り組みからも、職員を大切にしようとする姿勢をうかがい知ることができる。

 このように務めている会社からの支援があればこそ、それに応えようと社員は一生懸命に頑張ろうとするのではないか。

 

 SDGsでは、「誰ひとり取り残さない」をテーマに掲げているが、障がいを持った人も取り残されてはならない大切な存在だ。そのため、障がい福祉サービスは欠くことのできない役割を担っている。

 そうした場所に若い人材の力を結集できる同法人の取り組みは、SDGsの目標を叶え、その先の世界に向けても「誰ひとり取り残さない」というバトンをつないでくれるものと思う。
 


(資料)『社員を大切にする経営で元気をつくる』長野経済研究所「経済月報2023年6月号」
 

  

 

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