人を大切にする経営で元気をつくる(4)-株式会社南信精機製作所-<2023・02・15>

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最終更新日: 2023年2月15日

2021年度売り上げはリーマンショック以降最高を記録

  株式会社南信精機製作所(上伊那郡飯島町、代表片桐良晃氏)は、車載用精密部品やスマートフォン用振動部品などを生産する電子部品メーカーだ。

  売り上げの約8割は電気自動車(EV)を中心とする車載向けだが、スマートフォン用の振動部品は世界トップクラスのシェアを誇る。

  2021年度の売り上げは、コロナ禍ながら50億円とリーマンショック以降では最高を記録している。

強みの背景にある提案活動「NPS活動」

 変化が激しい自動車分野やスマホ分野で戦うためには、不断の品質向上やコスト削減の努力が欠かせない。

 それに対する同社の取り組みが、独自の改善活動「NPS(Nansin Production System)活動」だ。活動のスローガンは、「改善を習慣化する」というものである。

 2カ月に1件の改善提案を社員全員の業務目標に盛り込み、提案に向け、全員が所属する17のチームでそれぞれ週1回のミーティングが実施されている。各チームからの優れた改善提案については、毎月発表され、表彰を行う。そして、それらの結果を持ち寄った改善発表会が年4回開催されている。

 同社では、この仕組みを導入してから既に10年近くが経っており、改善提案は各社員の習慣と呼ぶにふさわしい活動となっている。毎月優に100件を超える改善提案が、23年2月で5年間(60ヵ月)継続していることになる。

 毎月100件を超える改善提案があれば、成果も大きなものとなる。

 21年度は、売り上げが対前年38%増と大幅に増えたが、総労働時間は前年並みにとどまった。つまり労働生産性が4割向上するという大きな成果が出たのである。

提案活動の「目的」はコミュニケーション活動

 片桐良晃社長は改善提案制度に込めた真の目的について、次のように説明してくれた。
「企業は組織で事を行う場です。組織はコミュニケーションが円滑でなければ何事も成しえません。企業活動にとってコミュニケーションは生命線です。当社にとって改善提案制度の目的は、コミュニケーション活動なのです」。

 片桐社長を始め管理職は提案に基づき社員と密に会話を重ね、各人の良いところや強みを理解するよう努めてきた。NPS活動で行われてきたチーム別のミーティングや全社発表会などは全て、社員を理解することに大いに役立ってきた。

 このようにして円滑なコミュニケーションの土台をつくり、各人の強みに応じた適材適所の配置も行うことで、同社の強い組織がつくられてきたのである。

 先に紹介した労働生産性の向上などの成果は、これらコミュニケーション活動の結果と言えるだろう。

コミュニケーション活動で働きやすい職場づくり

 コミュニケーション活動は、社員を大切にするための働きやすい職場づくりにも欠かせない。

 社員の話をしっかりと聞いて、社員の立場に立たないことには社員が働きやすい職場の姿が分からないからだ。会社が社員のためと一方的に福利厚生制度を用意しても、社員の声を聞くことがなければその制度はあまり活用されないだろう。

 同社では、前述の改善提案で社員から男性の育休制度の要望があり導入した。結果、ここ3年間で対象者18名の男性社員全員が育休を取得している。

 また、同じく改善提案で、毎週水曜日のノー残業デーや年6日以上の有給休暇取得などが提案され、全て制度として導入している。社員からの提案に基づいた制度であるため、年6日の有給休暇は社員全員が取得できており、ノー残業デーもしっかりと守られている。

経営理念「社員の共有する夢を実現する」

 最後に同社の経営理念に込められた「社員への思い」を紹介したい。

 経営理念は毎年、社員全員に配布されている「会社経営方針」という冊子に掲載され、周知されている。

 同社の経営理念は「無限の可能性に挑戦し、お客様に貢献する優れた技術の提供と社員の共有する夢を実現する」というものだ。この中の「社員の共有する夢」について片桐社長は、「これは豊かで幸せな生活を送ることだと考えており、そのためには、所得と自由な時間を増やすことが必要だと考えています」と説明してくれた。

 ここまで紹介してきた同社の取り組みの根幹が、この経営理念にあることが分かる。社員の豊かで幸せな生活を願い、社員の所得と自由な時間を増やすため、同社の企業活動は行われているのである。

 このような企業理念と経営者の思いを社員が理解しているからこそ、会社に愛情をもって月に100件を超える改善提案を継続している。そして、会社や上司がそれぞれの社員を大切に思って指導し、尽力してくれているからこそ、それに応えようと6SA活動を徹底し取引先の信頼を勝ち得ているのだ。

 このような社員を大切に思う企業理念や企業風土こそが、同社の好業績を支える大きな力になっているに違いない。


(資料)『社員を大切にする経営で元気をつくる』長野経済研究所「経済月報2023年2月号」

 

 

 

 

 

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