シニアの処遇を見直す企業が増えています ~労働力人口減少に備える~ <2021.9.9>

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最終更新日: 2022年9月9日

 長野経済研究所では経営相談メニューの1つとして、人事制度導入および制度再構築のコンサルティングを実施しています。

   急激な少子高齢化に直面している日本は、労働力人口が既に減少に転じています。このため、制度見直しの際に資格体系・賃金・評価といった全体像に加え、高齢者(シニア)に焦点を当てた検討を行う企業が増えています。

1.定年年齢の見直し

  日本労働組合総連合会(以下、連合といいます)が、2021年6月に主要組合を対象に実施した調査では、定年制ありの企業では定年年齢を60歳とする先が75.4%占めています。この数字が示すように、現在は、定年を60歳として65歳までは嘱託雇用という対応が主流であり、長野県内の企業も同様の傾向にあります。

 改正高年齢者雇用安定法により21年4月からは、70歳までの就労機会の確保が努力義務となりました。今後は、定年年齢の見直しを検討する企業が増えていくとみられます。

 既に定年年齢を引き上げた先でも、制度を運用しながら各社の実情に合わせた見直しに取り組む先が多くなっています。以下、当研究所のコンサルティング先の事例を紹介します。

■定年制の廃止(建設業A社)

 A社では、19年に定年を廃止し、希望する従業員全員を雇用する仕組みを導入しました。これは、熟練した技能を持つシニアを積極的に活用していくための対応です。

 ただ、現状は60歳以上の社員の割合が少ない状況ですが、今後は社員の高齢化が本格化するため、人件費負担増加が懸念されています。

 このため、23年1月実施に向け進めている制度見直しでは、一定年齢で役職定年と給与見直しを設けることを検討しています。高齢となっても活躍する社員を増やしていくことで、人手不足をカバーしていく意向です。

 ■65歳定年制(建設業B社)

 B社は、19年に定年を65歳に引き上げました。年々、技術者の採用が難しくなる状況に対応するため、高齢の有資格者を積極的に活用していくための対応です。なお、65歳までの処遇は、60歳の段階で本人希望と勤務実績を考慮して決定しています。また、本人が希望する場合、健康状態等を勘案しながら、さらなる雇用延長にも応じています。

 当社は今年から段階的に人事制度の見直しを進めています。評価制度見直しにおいて従来は評価対象外であった60歳超の社員に新たな評価の仕組みを設けるなど、定年まで働き甲斐を持ち就労できる仕組みを検討しています。

  事例A・Bのように、定年年齢を65歳や70歳に引き上げる場合、年齢に伴う体力面・健康状態・就労意欲などの個人差拡大を考慮する必要があります。

 全員一律対応ではなく、社員の状況に合わせ処遇の見直しも可能となる余地を残すこともご検討ください。

2.60~65歳の賃金水準の見直し

   連合による同調査での60歳超の賃金水準は、60歳定年の場合、60歳以降賃金は60歳までの59.0%、同年間賃金は56.1%となっており、多くの企業で定年再雇用者に対して、大幅な処遇の引き下げが行われています。

 将来的な定年引上げを展望しながらも、現時点では定年引き上げまでは行わず、60歳以降の処遇改善として再雇用者の賃金水準の引き上げに取り組む先も増えています。

■役職定年廃止(製造業C社)

  C社は60歳定年を採用していますが、58歳の時点で役職定年を適用し処遇を引き下げています。60歳以降の再雇用の時には、役職定年後の賃金を基準にさらなる引き下げを行っています。

 こうした中、今後の労働力不足などを見据えて、24年度から役職定年を撤廃することを検討しています。これにより58歳で賃金が下がることが無くなり、60歳以降の再雇用者の処遇も改善されます。

 これは、処遇引き下げによるモチベーションの低下を解消し、58歳超の社員の経験や技能を活用することを目的としています。将来的に定年年齢を引き上げ、シニア活躍の場を拡大することも見据えての対応です。

■再雇用者の賃金見直し(製造業D社)

  D社は、60歳定年で以降65歳までは嘱託契約となります。60歳定年時点で、賃金は一律で定額に引き下げとなります。その後63歳で時給制に移行して処遇をさらに引き下げる、二段階での引き下げを行っています。

 今年度取り組んでいる人事制度改正において、60歳以降の賃金水準見直しを検討しており、63歳での時給制へ移行は廃止予定です。定年再雇用者の処遇を改善することで、働き甲斐を高めるよう検討を進めています。

 60歳以降の賃金についての検討事項は、(1)賃金の水準、(2)昇給の有無、(3)評価の有無と評価実施の場合の処遇への反映方法、の3点が考えられます。

 社員が70歳まで働く時代を展望すると、従来のように60歳で大幅に処遇を引き下げる運用では、シニアのモチベーションを保てなくなるケースが増加する可能性があります。

 事例のように、60~70歳までの社員の勤労意欲を高めることを目的とした見直しは、ますます増えていくものと見込まれます

  当研究所では人事制度見直しに際し、労働力人口減少に対応する仕組みや企業の実情に即した制度構築をサポートします。お気軽にご相談ください。

 本事例の参考データにつきましては、経済月報2022年9月号の「コンサルティングの現場から」をご覧下さい。 

 (主席コンサルタント 岩下宏文)

 

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